16―5

「全く。お前さんというやつは……」


 しかめた顔でマティスがいう。

 ため息が、チャットルームの熱気と目の前の紅茶の湯気と混じり合う。

 ザックは、呆れるような視線を笑ってごまかした。

 ハモンドを捕まえるどころか、塩を送る形となった…… その事がばれたのだ。


「まぁ、それがお前さんのいい所なのかもな」


 マティスの不敵な笑みに、ザックは胸を撫で下ろす。

 隣の席に座るラーソと目を合わせた時、自然に笑みがこぼれた。


「やっと見つけた!」


 少女の声だ。

 振り向かずとも誰かは解った。


「ザックさんってば、助けになるって言っといてどこのチャットルームにいるか、言ってくれなかったんだもん!」


 やはり、沙流だった。その元気そうな姿と機嫌のよさに、リロードの成功を理解する。

 いぶかしげなマティス、挨拶を始めるラーソを尻目に、沙流の話は一方的に続く。

 内容は一方的で飛び飛びだったが、どうやら感謝を伝えに来たらしい。

 ザックはありがたく礼を受けとった。


「でも俺のところより先に、お父さんのところに行ってあげた方がいいんじゃないかな」


 直後、「うん!」と返事が来る。

 注文していた三人分のコーヒーも、やって来る。

 コトンと机に置かれた時、合図とばかりに沙流が動いた。


「じゃあまた、いつか!」


 客人の間を、色ずく風が駆け去った。

 ザックは、軽く振っていた手を下げ、代わりにコーヒーカップを握り込む。


(またいつか、か)

「またいつか…… これって、別れを寂しくさせない魔法の言葉だと思いません?」


 ラーソの口から、思っていた言葉が飛び出した。

 驚きと、気があった嬉しさからか、コーヒーの味がいつにもましておいしく感じられた。


「なんだこれは? ……ここの店はダメだな。コーヒーの味が薄い」


 マティスの愚痴が、飲み干す最中にうっすら聞こえた――

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