10「比翼連理」
10―1
列車は走る。人々と、その思いを乗せながら。
ザックは、これまで居たワイスから、列車で一〇数時間の距離にあるスパンセへ移動を始めていた。
しばらく定住を決めていたワイスから離れた目的は一つ。スパンセで以前知り合ったレリクから「ぜひ急ぎ会ってほしい人がいる」とのテレパシー接触があったからだ。
列車に揺られ、既に五時間。
始めは窓の外を楽しんでいたが、長く続く心地よい振動により、ザックは次第に景色を霞ませ始めた。
『ソシノさん。今は荒らしより、写真の方を……』
そして気が付くと、窓を流れる風景ではなく、記憶の中を流れる古い光景をまどろ見ていた。
桜の中、ソシノという女性と一緒に歩く、そんな緩やかなひと時の夢だった。
夢、ではあるが、これはもはや過去の追体験。魂に刻まれた記憶が、時おりこのように自身をトリップさせることがある。
『ソシノさん、さあ、かまわずに』
ザックは、急に立ち止まったソシノを諌めるように言った。
道の脇には荒らしの姿。ザックも当然気づいていたが、尚を先に進むよう促す。
しかし、ソシノは荒らしの方へと移動を始めた。そして、透き通った身体で荒らしに対し華奢(きゃしゃ)な腕を振るい始める。
『ソシノさん!』
慌ててザックは加勢に加わった。
手をかざして思念波を作り、荒らしを後方へ吹き飛ばす。
更に追撃を加えるため、吹き飛んだ荒らしの背後に、瞬間的に移動する。
すかさず左右の腕を交互に突き出し、片足を荒らしの胸の高さまで蹴り上げた。
よろめき、倒れる荒らし。そこにソシノの援護が入る。
〈ul〉〈li〉 〈/ul〉
それは、光球タグにより作られた光弾だった。
光弾が直撃し、荒らしは静かに浄化し、消え去った。
『危ないじゃないですか!』
『だって、わたしのせいだから…… わたしのせいでインディゴが……』
うつむき、萎縮するソシノに、ザックは少し罪悪感を覚える。
気を取り直し慰めに掛かるが、ソシノの機嫌は直らない。
『ザックはやっぱり解らないのよ。あたしの気持ちなんか!』
涙を湛えた叫び声。
それに対し、ザックはただ、桜が写された写真を一枚手渡した。
『桜は散ってもまた咲きます。願いもまた、続ければいつか花開く。教えてくれたのはあなたですよ。ソシノさん』
気付くと、ソシノの頬に光る流れが生まれていた。
表情を見るに、それは、悲しいからではないようだ。
『ありがとう。ううん。ごめんなさい。ザックが一番辛いよね』
泣き顔を見せるソシノに、ザックはにこやかに笑いを返した――
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