第2ー12話 涙は女の兵器なのです。

「なるほど…事情は大体分かったよ。」

 フェミちゃんが腕を組ながらウンウンと頷く。

「私も参加していいんですか?」

 コンちゃん、入部間もないのに大変な事に巻き込まれちゃったね。

「まあ、そんなワケでタマ君にNOと言える鉄の心を叩き込むわよ。もしくは相手を納得させられるような断る理由も絶賛募集中ね!」

 丹澤慶子が叩き込むって言うと拳を叩き込みそうで恐いな。

「まあ、精々頑張ってくれたまえ。」

 他人事みたいに言うなよ。

「タマ、みんなお前のために集まってくれてるんだぞ。真面目にやれよ。」

 テレちゃんはタマの頬をつねる。

「痛い痛い…。はい、最善を尽くします。」

 既に尻に敷かれてるなタマ。

「ところでタマ君、御両親にはこの事ちゃんと言ったの?」

「おう!母ちゃんにはちゃんと言ったぞメガネ。」

「…で、お母さんは何て?」

「俺は信頼されているからな。『好きにしろ、そして勝手にしろ』って言われた。」

 それは信頼されているのか?

「タマのお母さんか…。なあタマ、私の事はお母さんに言ってたりするのか?」

 テレちゃんがもじもじしながら聞く。テレちゃんが本筋から話をずらすなんて珍しいな。よっぽど気になったんだね。

「おう。伝えてあるぞ。ハーフの女の子と付き合う事になったってな。」

「それで…何て言ってた?」

「ああ、『寝言は寝て言え、そして嘘つきはイ○ミの始まりだ』って言われた。」

「イヤ○って何だ?」

「知らないのか?お○まつ○んの嘘つきキャラざんす。」

「…愉快なお母さんだな。」

 完全に信じてないね。そりゃそうだ。

「シェーーー!!!」

 もういいから…。

「ゴホンッ…。まあ、タマ君が母親にものすごーーーく信頼されているのはよく解ったわ。さて、本題よ。相手は間違いなくお金で釣ってくるわよ。」

「その前に先生。」

 メガネが手を上げて発言する。

「なあに、メガネ君。」

「先程聞かせてもらった話ですけど…、国家機密ですよね?何で先生が知っているんですか?そして僕達に話していいんですか?」

 ああ、未攻略ダンジョンが本当は3つとか危険なダンジョンがあるとか公にされてないヤツな。

「まあ、そんな事はどうでもいいじゃない。話したのはあなた達が信用出来ると信じているからよ。そして、タマ君は信じていないけど当事者だからよ。」

「先生、そこまで言ったなら教えてくれよ。私達の事信じてくれてるんだろ?」

 タマのを信じていないという発言は無視してテレちゃんが聞く。まあ気にしてたら話は進まないわな。

「…う~ん…。」

 丹澤慶子は目を閉じて唸る。しばらく葛藤した後、覚悟を決めたように口を開いた。

「そうね。ここまで話しておいてそこだけ濁すのも気持ち悪いわよね…。ごめんなさいね。実は…」

「先生!!みなまで言うな!俺にはちゃんと分かっている…言いたくないんだろ?」

 邪魔すんなタマ。

「タマ君…、本当に分かって…ムグッ!」

 タマがメガネの口を塞ぎ部屋の隅に連れて行きヒソヒソと耳打ちをする。

「いいかメガネ。ここまで内緒にしてたんだからどえらい秘密に違いない。ここで丹澤先生に恩を売っておくんだ。さすれば以後俺達の扱いが変わるであろう。」

「僕は扱いに不満はないよ。タマ君は別に見当がついていたワケじゃないんだね?」

「フフン…メガネ、おれを舐めてもらっちゃ困りますぜ…。多分丹澤先生はな…」

 タマがそこまで言うと部屋が殺気に満ちた空気に包まれる。

「つべこべ言わずに聞け…誰のために集まってると思ってるんだ?」

 背後に立つ丹澤慶子はきっと幻覚だろうけど赤いオーラを放っている。


「じゃあ話すわよ。」

「は~い!」

 元気良く返事をしたタマの両頬はリンゴ入ってるんじゃね?っていう位に腫れて真っ赤だ。

「私も大学を卒業して数年経った時に防衛省から声をかけられたのよ。向かうところ敵無しだった私は高い報酬につられて契約してしまったの。そして未攻略だったダンジョンを4つ攻略した後、あのダンジョンの攻略を命じられたの…。」

「あのダンジョンってどこですか?」

 フェミちゃんが真剣な表情で聞く。

「那須の殺生石(せっしょうせき)の近くにある通称『九尾ダンジョン』よ。」

「九尾ダンジョン…あの未攻略で立ち入りが禁止されてるダンジョンですね。」

「そう。そして、未攻略かつ危険と判断されている唯一のダンジョンよ。」

「先生、さっきから危険危険と言ってますけど危険って何なんすか?」

 タマが珍しくまともな質問をする。腫れていた頬ももう元通りだ。恐るべき回復力…。

「それも話さなきゃいけないわね。ボス戦での死亡のきっかけになるダメージが残るのよ。例えば、最後に受けたダメージが肩への斬撃だった場合、肩に斬られた傷がダンジョンから出ても残るの。幸い今まで死者は出ていないけど、重傷者は多数出ているわ。」

「…それが先生がダンジョンを引退した理由ですか?」

「そうよ。」

「先生も…その…ケガしたんですか?」

 コンちゃんが控えめに小さな声で聞く。

「ええ、死にかけたわ。」

 そう言うと丹澤慶子はブラウスのボタンを外し出す。

「ちょ、ちょっと先生!」

 フェミちゃんは慌ててメガネの目を手で塞ぐ。テレちゃんも慌ててタマの顎に右フックを叩き込み気絶させる。

「あっ、ごめん。2人を男として見てなかったから気が付かなかったわ。……これがその時の傷よ。」

 丹澤慶子の左の胸から右の腰辺りまで大きな傷が走っていた。白く綺麗な肌にそれは不釣り合いで現実感がない。

「これは…酷いな…。」

 そう言ってテレちゃんはハッとする。

「あ…ごめん先生…。」

「いいのよ。自分でもそう思うから。」

 丹澤慶子は申し訳なさそうにしているテレちゃんの頭をぽんぽんと優しく叩いた。

「う~ん…。なっ…何だ先生!その傷は!?」

 タマが早くも気絶から覚めてしまったようだ。再びテレちゃんが拳を握る。テレちゃんよ…気絶以外の選択肢はないのか?

「どう?酷い傷でしょ?」

「何言ってるんだ先生!すげえカッコイイじゃん!!」

「え?」

「いいな~俺も欲しいな~。何か歴戦の戦士って感じで自慢出来るじゃん!」

「おいタマ!!先生は女だぞ!」

 テレちゃんが叱る。

「男も女もないだろ?もしテレちゃんにあっても俺はカッコイイって言うし気持ちは変わらんぞ。」

「な…。」

 テレちゃんは赤くなり固まる。

「なあメガネ、フェミちゃんに傷があったら何か変わるか?」

「変わらないね。」

 メガネは即答する。丹澤慶子の目からポタポタと涙が流れ落ちた。

「あれ?何で私泣いてるんだろ?ハハ…参ったな…。」

 顔は笑っていても涙は次々と頬を伝い顎からキラキラと落ちていく。

 タマはアホだけどたまに人の心の核心を突く時があるよね。

「先生…。」

 フェミちゃん、テレちゃん、コンちゃんも涙ぐんでいる。

「あ~やだやだ。さて、話を戻すわよ!あ、その前にタマ君ありがとう…。」

「ん?俺何か感謝されるような事しましたかね?」

 無自覚なのが凄いな…。

「それに現実にことわざのシチュエーションってあるんすね。」

「ことわざ?」

「うん。『鬼の目にも涙』!」


 タマ、本日2度目の気絶がこの時確定した。


 ぬあ!気が付いたら断る練習出来てないじゃん!!次回こそ練習…になる…はずだ…。

 たまに嘘予告になる事もあるかもしれないけど、そんな時は苦情を言わず心の中で舌打ちして下さい。苦情を言うと気の小さい作者がストレスで血を吐くかもしれないぞ!!


 次回!!本当に断る練習!!……つづく!

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