第2ー4話 変われば変わるものなのです。

「あの…。ちょっといいですか?コホッ…。」

 コンちゃんは部室でだらだらしている先輩達に意を決して話しかけた。

「ん?どうしたの?」

 月刊ダンジョンから目を上げフェミちゃんが返答する。

「ダンジョンに行ったり何か練習したりしないんですか?私何かするんだと思ってジャージで来たんですけど…。」

 確かにみんな制服なのにコンちゃんだけはジャージ姿だ。

「うむ。良い質問だな。我々は努力は最小限に成果は最大限に…ローリスクハイリターンを追求するベンチャー部活動なのだよ。」

 嘘つけ。

「タマ、コンちゃん真面目だから信じるぞ。コンちゃん、ダンジョンには毎週土曜に行く事になっているんだ。練習は…まあ…基本的にはやらないな。ただ、メガネを見てみなよ。」

 コンちゃんが見るとメガネは盆栽を手入れしている。

「?盆栽を手入れしてるのは分かりますけど…これが練習なんですか?」

「もっとよく見てみな。」

「!!メガネ先輩!そ…それは!」

 メガネは椅子に座っていなかった。いわゆる空気椅子だ。普通に座っているかのような安定感…すげぇなメガネ。

「まあ、やろうと思えばどこでも鍛練は出来るって事かな。」

「なるほど…。じゃあ、タマ先輩もだらだらしているように見えて実は何かしらの鍛練をしているんですか?」

「お…おう!してるぞ!」

 だから嘘をつくな。

「タマはただだらだらしてるだけだ。タマも少しは鍛練したらどうだ?」

「『鍛練』が『足んねえ』なんつって…プププ…。」

「……面接の時から気になってたんだけど、もしかしてコンちゃんダジャレ好き…」

 フェミちゃんが今までみんながスルーしていたコンちゃんの癖(?)を指摘しようとした時、部室のドアを誰かがノックした。

『お~い!タマちゃん!みんな!ちょっといいかな?』

 ドアの向こうで聞き覚えのある声がする。

 みんなは無視した。

「え?あの…誰か呼んでますけど…コホッ…。」

「気のせいだぞコンちゃん。」

「え?でも…。」

『お~い!いるんでしょ?』

「じゃあ、コンちゃんに昔話をしてやろう…。」


【ハンクス太郎】作・タマ


 むか~しむかし中途半端な田舎の高校に『ハンクス太郎』というウ○コの長いウ○コ野郎がいたんじゃそうな~。あっ、この場合の長いは物理的に長いのではなく、時間が長いという意味なんじゃそうな~。

 ある日、暇をもて余していたハンクス太郎は高校のカリスマ『タマ乃信』に誘われ魔物征伐の部活を創る事になったんじゃそうな~。

 大活躍のタマ乃信…足を引っ張るハンクス太郎…その他の仲間の助けもあり魔物征伐は軌道に乗ったんじゃそうな~。

 そんな時、ハンクス太郎は恐ろしくも美しい『山内姫』に恋をしたんじゃそうな~。事もあろうにハンクス太郎はタマ乃信やその他の仲間達を裏切り悪の巣窟『魔界ダイイーチ』に身を落としたんじゃそうな~。

 しかし空気の読めないハンクス太郎はたまに古巣である魔物征伐の部活に恥ずかしげもなく顔を出すようになったんじゃそうな~。

 タマ乃信とその他の仲間達は無視する事にしましたとさ。

 めでたしめでたし…。


「どうだ?」

「いえ…どうだと言われましても…。」

 コンちゃんは困惑している。だよね。

『お~い。』

「タマ君は本当にどうでもいい事に労力を割くよね。それと『じゃそうな~』が多すぎてイラッとするよ。」

 フェミちゃんがタマに呆れながらハンクスを無視した。

『ちょっと~。』

「僕達が『その他の仲間達』ってないがしろにされてるのが腹立つね。」

 メガネが感想を述べつつハンクスを無視した。

『いるんでしょ~。』

「まあ、要するに昔部員にハンクスって奴がいたって話だよ。」

 テレちゃんが要約しながらハンクスを無視した。

「なる…ほど…。」

 コンちゃんは力業で理解させられた。

「…よし、じゃあそろそろいいかな?」

 タマはよっこらせと腰を上げる。

「そうだね。」

「うん。」

「いいんじゃないか?」

 タマはドアを開けた。完全に無視するワケじゃないんだね。

「も~早く開けてよ~。」

「ああ、すまんすまん。ちょっとみんなで大きなカマキリと小さなシマリスどっちが強いかを討論していてな。危うくメガネと殴り合いになるところだったんだ。」

 どうしてそんな適当な嘘をつけるんだか…。

「そうだったんだ。…って絶対嘘だよね?」

 当たり前だけど、すぐバレた。ハンクスは……ってハンクス?ハンクスなのか?

「お前またでかくなってないか?傷だってまた増えてるし。」

 そこには身長185を超え筋肉が盛り上がり額には十字傷、右頬にも大きな傷のある世紀末覇王のような大男立っている。もはやトム・ハンクスに似ていない彼をハンクスと呼んで良いのかも疑問だ。


 ハンクスが半年で変貌したのは他でもない山内と交際を始めたのがきっかけだった。「私と付き合うのだから私より強くなりなさい」という山内の言葉にハンクスは奮起し、ダンジョンの内外問わず山内の特訓を受けた。まあ、本質は特訓というよりも山内の大学受験のストレス発散だったんだけどね。そのかいもあってか山内は県内の国立大学に見事合格したそうな。でもそれだけでそんなになるのか?


「いや~山内先輩のおかげだね。特に山内先輩特製のスペシャルドリンクが効いてると思うんだよね。」

 それは大丈夫なヤツなのか?健康的にも法律的にも…。

「…で、何の用だ?こっちはカマキリの強さについてメガネに教えこまなきゃならんのだ。早くしてくれ。」

 まだ言うか。

「ああ、そうだった。みんなにお礼を言いに来たんだ。みんなが第1ダンジョン部に新入生を紹介してくれたおかげで30人も入ったんだ~。ありがとうね。」

「そうか。それは良かったな。だが、何でお前が来るんだ?部長が来い部長が!」

「いや…だから僕が…。申し遅れました。私こう言う者です。」

 ハンクスは偉そうに名刺を取り出した。


【那須野ヶ原高校第1ダンジョン部部長

            塩野谷 善朗】


「なにーーー!!!」


 もはや別人となってしまったハンクス。人は変わろうと思えば変われるのだ!良い意味でも悪い意味でもね。

 今の自分に不満がある人に言いたい。君も変われる!作者もダメ人間からちょっとダメ人間に変われたのだから大丈夫だ!!


 次回!!コンちゃんの初ダンジョン。無理しないようにね。……つづく!!

 

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