第2ー1話 2年生になったのです。

「いくぞーーー!!」

 カキーンと音を立て白球が鋭く飛ぶ。グラウンドにいたジャージ姿の生徒達は捕る事が出来ない。

「気合いが足りないぞ!グローブで捕ろうと思うな!!心で…気合いで捕れ!そんな事で甲子園に行けると思ってるのか!!」

「は…はい!!」

「いくぞーーー!!」

 再びカキーンと音がする。


「ねえ…あれ何してるの?」

 部室に向かう途中、フェミちゃんは冷やかな目でその状況を見ていた。

「さあな。タマがまた何かアホな事でも思い付いたんだろ?」

 テレちゃんは呆れたように言う。

 ノックをしているのはタマだった。それを受けているのは新1年生のようだ。

「ちょっとタマ君!!何してるの!?」

 フェミちゃんがタマに近づきながら話しかける。

「お~フェミちゃんにテレちゃん。これは入部テストだ。」

「それが何で野球なのかは分からないけど…。勝手に使うと野球部に怒られるよ。」

「大丈夫!奴らは練習試合で留守だ。やはり根性のある新入生を入れたいからな。これでふるいにかけようってのが俺の考えなのだよ。」

「ほ~…。そうか、第5ダンジョン部には根性が必要なんだな?じゃあタマ、先輩として手本を見せてやれ。」

 タマの額から冷や汗がダラダラと流れる。

「あっ、丹澤先生お疲れ様です。」

 いつの間にかタマの背後に立っていた丹澤慶子にフェミちゃんが挨拶をする。

「はいお疲れ様。さあ、タマ…守備につけ!!!」

「は…はい~!!」


「はひ~はひ~。」

 タマは虫の息だ。タマは丹澤慶子のノックを150本程受けた後、バッタリと倒れた。その倒れたタマに丹澤慶子は容赦なく球を打ち続けタマの頭には5段重ねのタンコブが出来ていた。鬼だね。

「しかしありがたいやら困ったやらね。フェミちゃん、入部希望者何人いるの?」

 丹澤慶子は入部希望の紙をペラペラ捲りながら聞いた。

「今の段階で53人ですね。」

「顧問として本当はこんな事言っちゃいけないんだろうけど…正直全員は面倒見きれないわね。」

「そうですね…。ウチのモットーは『やる時はやるけどやらない時はやらない。明るく楽しくのんびりと』ですからね。」

 そんなモットーいつ出来たんだ?まあ、第1部が終わって半年経ってるから色々あったんだろう。

「僕も見たけど、本格的にやりたい、またはやっていたって人が結構いるよね。この人達は第1の方が良いと思うから言ってみようか?」

 メガネはパチリパチリと盆栽の手入れをしながら言う。部室で何やってるんだ?

「そうね…。それでも30人は残るわね。」

 丹澤慶子、メガネの盆栽はスルーか?もしかして日常の事なのかもしれない。半年経つと色々変わるね。

「も…もっと減らせますぜ…。」

 タマはフラフラと立ち上がる。大丈夫か?

「減らせるってどういう事?」

 フェミちゃんがタンコブをチラチラ見ながら聞いた。

「それは僕から説明するよ。」

 メガネが盆栽をいじるのを止め正面を向く。

「さっきタマ君がノックしてたでしょ?受けてた1年生は皆男だったよね?」

「そう言えばそうだったな。」

 テレちゃんは思い出すように言う。

「あの1年生の目的はフェミちゃんとテレちゃんだったんだよね。」

「は?」

「部室に入って来るなり『郷田先輩いますか?』とか『源先輩いますか?』って聞いてきたんだ。フェミちゃんもテレちゃんも可愛いからね。お近づきになりたい1年男子が来たってわけだよ。」

「も~可愛いだなんてやめてよリョウ君~。」

 フェミちゃん、部活ではメガネと呼ぶんじゃなかったのか?イチャイチャしやがって…。

「なるほど…、それでタマが理不尽な入部テストをさせてそんな奴らを追い払おうとしたって事なんだな?そしてメガネもそれを黙認したと。」

 テレちゃんもタマが自分のためにあんなアホな事をしていた事を知って口元がにやけている。可愛いぞテレちゃん。

「そうだったんだ…。ごめんねタマ君。」

「すまなかったタマ。」

 フェミちゃんとテレちゃんはタマに頭を下げた。

「なに、いいって事よ。それよりも先生、俺に何か言う事はないですかね?」

 タマはノックで瀕死のダメージを受けさせた丹澤慶子をじっと見る。そうだよね。そんな理由だったなら謝罪の言葉があってもいいよね?

「ん?別にないけど?」

 何ーーー!!!

「あ、あのね先生。もし、間違った事をしてしまった場合、きちんと謝るのも大人だと思うし、それこそが教育だと俺は思うワケですよ。」

 まさかの返答にタマはたじろぎ珍しく正論を述べた。

「ええ、分かってるわよ。でも私は間違った事も謝るような事もしてないもの。」

 これがタマに謝りたくないから言っているのではなく本心から言っているのだ!恐るべし丹澤慶子…。

 何を言っても無駄だと分かったタマはすごすごと引き下がった。

「まあ、野球はないにしても入部テストは必要かもね。先生、何か良い案はありませんか?」

「そうね…。とにかくあなた達は仲が良すぎるからね…。ダンジョンでの実力より性格とかを見た方がいいんじゃないのかしら?…となるとまずは面接じゃない?」

 なるほど。考えてみたら今の第5ダンジョン部って恋人同士が二組みたいなもんだからね。

「そうですね…。何人位入れますか?」

「う~ん…、ダンジョンに2組と考えるとMAX6人かな?」


 かくして第5ダンジョン部入部テストが幕を開けるのであった。

 次回!!面接!タマはちゃんと面接官を出来るのか!?まあ、ちゃんとは無理だろうね。………つづく!!

 

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