アナザーストーリー1 女の戦いなのです。

 鈴木会長は激怒した。

 必ず、かのアホで失礼極まりないタマを除かなければならぬと決意した。鈴木会長には冗談がわからぬ。鈴木会長は、生徒会長である。勉学に打ち込み、部活も部長として真面目に……って、第1部が終わったって事で作風を変えてみようと思って太宰治走れメロス風にしてみたけど……無理がある!!

 

 と、言うわけで(?)話は全高ダンで第1ダンジョン部が第5ダンジョン部に負けた時に遡る。


「チクショー…。」

 鈴木会長は人生で初めての言葉を使った。第1ダンジョン部は会長の手配したワンボックスカーで会場を後にしていた。車内はピリピリとした緊張感が漂っている。


「仕方ないじゃないですか。負けは負けです。」

 山内は頬杖をつきながら外を見ながら言った。

「山内さん。あなた程の人があの眼鏡の…名前は何だったかしら?塩野谷君?」

「メガネです。」

「そうそう、メガネに…ってアダ名じゃなくて!!」

「あっごめんなさい!え~と…石山だったかな?」

 石田です。

「その石山に負けた事が私の最大の見込み違いだったわ。」

 だから石田だって!

 山内の眉がピクリと動く。

「彼は強かったですよ。まあ、10回戦えば7回は勝てるでしょうけど…その残り3回が本番で起こってしまった感じですね。私が負けても会長と塩野谷君で郷田さん(フェミちゃん)と玉乃井君(タマ)を倒せればいいだけの話ですよね?

 そもそも『飛刀雷霆』なんてリスクの高いスキルを使う事が正しかったのか疑問です。」

 今度はピクリと会長の眉が動く。

「私の作戦が悪かったと?」

「結果から見ればそうなんじゃないですか?」

 女性2人の言い合いに男ABCとハンクスはただただオロオロとしていた。運転手の鈴木会長の父の経営する会社の社員である伊藤さんもルームミラーでチラチラと後方を気にしている。お疲れ様です伊藤さん。

「そうですか…。でも仮にそうだったとしてもあなた達は悔しくはないの?」

 突然自分達にも振られた男どもは流れで「悔しいです」と答えた。ってか答えるしかないよね。山内はクスリと笑う。

「山内さん、何が可笑しいのかしら?」

 今まで以上に車内に緊張が走る。

「論点がズレてますよ。勿論私だって悔しいです。その悔しい思いをさせたのは会長、あなた自身である事をお忘れなく。そもそも、会長が最初に『作戦ミスだった。ごめんなさい』と言ってくれたら良かったんです。それを周りに当たり散らして…みっともない。玉乃井君が絡むと取り乱すその癖、やめてもらえますか?迷惑です。」


 会長のこめかみに青い筋がくっきりと浮かび上がる。


「か…会長も山内先輩ももう止めましょうよ!先輩方は最後の大会だったんですから健闘をお互い讃えて気持ち良く終わりましょう!!」

 その空気に耐えられなくなったハンクスが2人の間に割って入る。1年のハンクスが勇気を出して発言したのに他の3年の男達は何をしているんだ?会長と山内が恐いのかな?

 会長、山内の視線がハンクスに向く。

「塩野谷君、あなたはどう思う?」

「塩野谷君、あなたはどっちの味方なの?」

 なるほど…こうなるのが恐くて3年男子は何も言わなかったわけだ…。

「え?ま…まぁ、負けたのは僕の回復の至らなさですし…山内先輩も本田先輩も、もちろん会長も、あの…カッコ良かったです!」

 大人だなハンクス。これで少しは落ち着くだろう。

「いや、きれい事はいいから…。」

 えええーーー!!!

 その時、運転手の伊藤さんが低い良い声でぼそりと話し出した。

「喉が渇きましたね…。お嬢さん(会長)も皆さん方もここで一服しませんか?ここのコーヒー…私好きなんですよ。」

 車は木に囲まれた落ち着いた雰囲気のカフェの駐車場に入って行った。車を停めると伊藤さんは話を続ける。

「私はですね。皆さん方が羨ましいんです。小中高と私はバスケ部でしてね。プロになりたくてそりゃ練習に明け暮れてました。」

 第1ダンジョン部は静かに話を聞いている。

「高校1年の夏に大怪我をしましてね。もうバスケは出来なくなってしまったんです。マネージャーとして部に残る道もあったんですが皆がプレイしているのを見ているのが辛くて結局辞めてしまったんですよ。

 ですから今の皆さん方を見ていて負けて悔しがったりケンカしたり…それが出来なかった自分には羨ましいんです。勿論出来れば勝ちたいですけどね。」

 そう言うと伊藤さんはニッコリと笑った。

 

 鈴木会長は改心した。

 必ず、かの高慢で失礼極まりない山内を除かなければならぬと決意していた自らを恥じた。……もう一回やってみたけどやっぱり太宰治風は作者には無理だな…。もうやりません…たぶん。


 伊藤さんのおかげで会長と山内のケンカは収まった。一番ホッとしたのはハンクスだったけどね。

 第1ダンジョン部は伊藤さんオススメのカフェ『taizo』の美味しいコーヒーとスコーンで負けた悔しさを溶かしていった。

 まあ、敵役的な存在だった第1ダンジョン部の3年生達も考えてみたら最後の大会に1年生に…しかも同じ学校に負けたって考えるとちょっと可哀想だよね。お疲れ様でした。


 ちなみに伊藤さんはこの後、会社の常務まで出世して鈴木会長が社長に就任すると定年後も相談役として鈴木会長をサポートしたそうな。


“確かに私の作戦ミスだったわね。皆には悪い事をしたわ。”

 会長は反省していた。この後会長は皆に頭を下げる事になる。本当はしっかりしてるんだよね会長。

“ただ…”

 ん?

“玉乃井だけは…いつかすり潰す…。”

 すり潰す!?怖!!


 次回!!アナザーストーリー2、群馬のあの高校の話!!

 タマ、すり潰されないように気を付けろ!………つづく!!

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