第1部最終話 裁判と恋と肝機能なのです。
「これより裁判を行います。被告人、前へ。」
タマが部屋の中央に置かれた机の前に立つ。まあ、いつもの部室なんだけどね。
「被告人、玉乃井樹……死刑!!」
裁判長フェミちゃんが高らかに言い放った。
「裁判長!!判決は最後にお願いします。」
検察官メガネがフェミちゃんを諌める。
「え~~~。」
「『え~~~。』じゃないですよ裁判長。まずは検察側の冒頭陳述からです。」
「は~い。じゃあ、検察官張り切ってどうぞ!」
軽いな。
「では…、玉乃井樹君は昨日源ていさん(16)より告白を受けました。そしてそれを『それは難しい』と残酷な言葉で断ったとの事です。よって彼に『乙女の告白を断っただけならまだしも言葉を選べやコノヤロー』の罪で起訴致しました。」
「はい死刑!!」
フェミちゃん裁判長はさっきより大きな声で言い放った。
「裁判長……弁護人からの冒頭陳述もありますから…。」
「え~~~。」
「『え~~~』じゃないです。」
「じゃあ、弁護人どうぞ。」
「はい。弁護人の玉乃井樹です。」
まさかの一人二役。
「被告人玉乃井樹は確かに源ていさん(16)から告白を受けました。そして『それは難しい』とも答えた事も間違いありません。しかし!!そこには大きな誤解があった事を申し上げます!」
「誤解?それはどういう事ですか?」
「それは…」
「それは?」
フェミちゃんが強いプレッシャーを放つ。メガネもタマの次の言葉を待っていた。
「…恥ずかしいので黙秘します。」
「はい死刑!!!!」
フェミちゃんは背後に隠していた木刀を肩に担いだ。
「ま…待て!フェミちゃん!!早まるな!」
タマは机を持ち上げ盾にする。
「タマ君、フェミちゃんの怒りは僕でももう止められない。全部話すしかないよ。
もっとも、それで怒りが収まれば良いんだけど…。最悪の場合は僕に出来る事は証拠を隠滅する事くらいだね。」
怖いぞメガネ!!
「分かったよ…。話せばいいんだろ!」
タマは机を降ろす。フェミちゃんも木刀を…しまってない!!
「テレちゃんは勉強が出来て可愛くて性格だって少し乱暴な所はあるけど凄く良い子じゃんか?
それに引き換え俺はちゃらんぽらんだし、見た目だって決してカッコ良くないしな。
つまり自信がないのだよ。」
意外なコンプレックスだな。いつも何も考えてないと思ってたぞ。
「確かにタマ君はアホだしカッコ良くないし、腐れ外道の生ゴミ野郎だけど…。じゃあ『それは難しい』っていうのは、そんな自分がテレちゃんと釣り合いが取れないからって事なの?」
流れで凄い暴言だねフェミちゃん。
「そうだよ。将来テレちゃんを食べさせて行けるか自信がない。」
「は?」
「ん?」
「聞き間違いかな?もう一回言ってくれる?」
「だから、将来テレちゃんを食べさせて行けるか自信がないのだよ。」
沈黙の部室にグランドから野球部の掛け声が聞こえてくる。沈黙を破ったのはメガネだった。
「タマ君?もしかしてテレちゃんと将来結婚した場合の話をしてるのかな?」
「当たり前だろ!!付き合うからにはそこまで考えるに決まっている。メガネだって考えるだろ?」
「そ…それは…。」
メガネはフェミちゃんをチラ見するとフェミちゃんは何かそわそわしている。
「考えてるに決まってるじゃないか。」
メガネは空気を読んだ。
「もう、リョウ君やめてよ~。」
言葉とは裏腹にフェミちゃんは満面の笑顔だ。このバカップルめ…。
「だろ?だから『それは難しい』なんだよ。」
「あのねタマ君。別にテレちゃんは将来タマ君に養ってもらおうだなんて考えてないからね。私とテレちゃんの間の誤解を解いてくれたタマ君なんだから次にやらなくちゃいけない事は分かってるよね?」
「…そうだな…。」
タマは珍しく真剣な顔で答えた。
「あの~…。」
ハンクスが恐る恐る声をかける。いたのか?
「傍聴人は発言を控えて下さい。」
フェミちゃんが注意する。まだ裁判設定は終わってなかったんだね。
「あ、すいません。………じゃないよ!何で僕がいる事完全無視なの?せっかく昨日の返事をしに来たのに…。」
「ん?返事?」
おいおい、タマがハンクスに第5ダンジョン部に帰って来ないか?って言ったじゃないか。忘れたのか?
「そう返事。…でね、僕やっぱり第1にいる事にするよ。」
「そうか。分かった。帰っていいぞ。」
「冷た!!何?そのあっさりとした対応?」
「帰って来ないなら興味はねぇ!こっちはそれどころじゃないだよ!」
ハンクス可愛そうに…。
「何だよ!分かったよ、帰りますよ!…あ、最後に報告を一つ…彼女が出来ました。以上!じゃあね。」
「ああ、じゃあな。……って、待て待て!!どういう事だ!?ハンクスに彼女が出来るはずなかろう?嘘か?妄想か?錯乱か?ついていってやるから病院行くぞ!」
タマは手を引いて行こうとするがハンクスはそれを振り払った。
「本当だよ!」
「相手は誰だ?まさか…。」
タマの脳裏に以前テレちゃんと見た光景が浮かんだ。
「山内先輩。」
やっぱりか。山内と聞いてメガネが身震いをする。激闘だったし山内怖かったもんね。
「ハ…ハンクス君。山内先輩の本性知ってるよね?先輩は…その…かなり個性的だよ?」
メガネは『変態』をオブラートに包んだ。
「もちろん。先輩を追いかけて第1に行って猛アタックの末お付き合いして下さる事に相成りました。」
ハンクスがニヤニヤする。腹立つ。
「おい。それが第5ダンジョン部を辞めた理由なのか?」
「あ…。」
浮かれて自白しやがったな。
「フェミちゃん裁判長!ハンクスに判決を!」
ハンクスに判決ってダジャレみたいだね。
「え~と…死刑!!」
その時校庭で部活をしていた全員がハンクスの悲鳴を聞いたそうな…。めでたしめでたし。
「テレちゃん。すまん!そういうワケで言葉が足りなかった。」
タマはテレちゃんを公園に呼び出していた。2人の通学路にあるあの小さな公園だ。
「そうか。そうだったんだ。」
にっこり笑ったテレちゃんだったが目が腫れていた。
「でな。俺アホだろ?」
「アホだな。」
「イケメンでもないよな?」
「そうかもな。」
「腐れ外道の生ゴミ野郎って説もある。」
「はは…、フェミちゃんにでも言われたか?」
「何で俺なんだ?」
「もういいよ。無理すんなよ。誤解は解けたんだから…大丈夫だよ、また明日な!」
テレちゃんはベンチから立ち上がり背を向けて歩き出す。その手をタマは掴んだ。
「そうじゃないのだよ。なぜ好かれたのか分からなくて只でさえ働きの悪い頭が対応出来んのだ。聞かせてくれ。」
しばしの沈黙の後、テレちゃんはくるりとタマの方を向いた。
「じゃあ、約束の映画、忘れてないよな?」
「お、おう。」
「全額出すって言ったよな?」
「お、おう。」
「その時にちょっとだけ教える。」
「ちょっとだけ?」
「うん、ちょっとだけ。…で、次に2人でどこかに出掛けたらその時にまたちょっとだけ教える。」
「うむ。それで手を打とう。」
翌日。
第5ダンジョン部は部室でのんべんだらりと過ごしていた。部室のドアがゆっくりとそして弱々しく開いた。
「みんな~…ちょっといいかしら…。」
「あ、先生お疲れ様です!……って、どうしたんですか!?」
フェミちゃんが駆け寄る。丹澤慶子は真っ青な顔で今にも倒れそうだ。
「先生!今日は青鬼ですね!!」
タマの発言に丹澤慶子の鉄拳が飛ぶ。しかしいつもの力ではない。何なら威力は3倍だ!……元気じゃん!
「あ…ごめんタマ君、体調悪くて力が加減出来ないのよ。」
恐ろしや…。
「先生、一体どうしたんだよ。」
テレちゃんも丹澤慶子に肩を貸す。
「あのね…。」
気絶しているタマ以外は心配で真剣に耳を傾ける。
「飲み過ぎちゃって…。2日連続大宴会でさ~。一昨日は大丈夫だったんだけど、昨日から今朝にかけては自分でも過去最高に飲んじゃったのよ。」
「あんなにお酒に強い先生がどれだけ飲んだらこんなになるんですか?」
メガネが持っていたペットボトルの水を渡す。
「ありがとう。こんだけ飲んじゃった。」
丹澤慶子は指を2本立てる。
「2升って飲み過ぎですよ!」
「違う違う…2樽…。」
ちなみに2升は約3.6リットル2樽は一般的な4斗樽だと144リットルだ。普通は死ぬ!間違いなく死ぬ!
「むむ…。あれ?俺、川が流れるお花畑にいたはずなんだが…ここは部室?」
危なかったなタマ、その川を渡ったら帰って来れないところだったぞ。
「あ、お帰りタマ君。」
「お帰り~。」
「早かったな。お帰り。」
皆は慣れたもんだ。
「それで、みんなにお願いがあるんだけど…。」
「先生からお願いなんて珍しいですね。何ですか?」
「これから一緒にダンジョンに行って欲しいの。」
「今からですか?」
「ええ、ほら、いつも行ってるファミレスの裏手の金井さん家のダンジョンってあるでしょ?そこよ。」
「ああ…なるほど…。」
メガネは何かを察したようだ。
「おいメガネ。どういう事だ?」
「あそこの報酬は肝機能が回復するんだよ。二日酔いも治るって聞いてる。」
「そうなの。だから一緒に行ってもらいたいの。」
丹澤慶子は頭を下げる。
「もちろんです。」
フェミちゃんは即答する。
「先生のためならね。」
メガネもそれに続いた。
「ああ、じゃあ行こうか。」
テレちゃんも準備を始める。
「え~…。めんどくさいからヤダ~。」
グーで殴られた。
第1部完
さて、読者の皆様。ここまで読んで下さってありがとうございました。しかし第1部完です。次回からはアナザーストーリーをいくつか書きます。そんでもって第2部に入ろうかと考えています。不定期にマイペースで続けて行きますんでよろしくお願いします。
とりあえず…次回アナザーストーリー!!あの人の八つ当たり!……つづく!!
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