第69話 秋の空はキレイなのです。

 第5ダンジョン部は重苦しい空気のバスに乗っていた。

 あれ?全高ダンは?

「タマ君…ちょっといいかな?」

 メガネがタマに真剣な顔で話し掛ける。

「お…おう。」

 タマも何か思い当たる節があるようだ。

「フェミちゃんもテレちゃんも言いづらいだろうから僕が言わせてもらうけど……。」

「はい…。」

「まだいけたと思うんだよ。確かに劣勢だったよ。相手は優勝候補だったからね。でもあのタイミングでの自爆は正直不本意だよ。」

「すんません。早まりました。」


 全高ダン三回戦。第5ダンジョン部は栃木県南部の私立高校足利多々良学園(あしかがたたらがくえん)との対戦となった。昨年ベスト4の2年生チームがそのまま3年生になった優勝候補の筆頭である。

 戦闘は開始直後から劣勢だった。第1ダンジョン部との激戦で疲れきっていた事もあったが、それ以上に力の差が大きいかった。しかも先制までされてしまったのだ。 

 ここからはその一部始終を見ていた第5ダンジョン部側の審判員柳川潤一(やながわじゅんいち)氏の語りで紹介しよう。


「え~…その部屋(ボスの間)に入った時からどうも変な感じがしてましてね…。

 何かやだな~、

 怖いな~怖いな~…と、思ってましたらね。突然目の前にすう~…と人影(敵プレイヤー)が現れまして…私はうわって声を上げて目を背けちゃったんですよ…。

 そうしましたらね。急にガキンガキン!!と何かが激しくぶつかり合う音(戦闘音)、叫び声(フェミちゃんの指揮する声)とかが聞こえてきましてね。

 何かやだな~、

 怖いな~怖いな~…って思いながら前を向いたわけですよ。そこにはおぞましい姿の霊(アンデット達)や落武者の霊達(プレイヤー達)やおそらく戦に巻き込まれて亡くなった農民の霊(タマ)が戦ってるんですよ。

 しばらくそれが続きましてね。次々と倒れて(アンデットが)消えていくんですよ。

 何かやだな~、

 怖いな~怖いな~、って見てたらですね。突然目の前が真っ白になって(タマが自爆)、気が付いたらここにいたんですよ…。」


 ……何か話が入って来なかった…。柳川さん、本当にちゃんと見てた?

 まあ、要するに敵の猛攻を受けて「こりゃ勝てねぇな。」と思ったタマが早々と自爆スキルを使ってしまった…て事かな?

「そうなんですね~。」

 柳川さんもナレーションと話すんですか?何かやだな~、怖いな~怖いな~。


 戦闘後、大会本部で審議が行われた。

 前代未聞の審判も含めた両チーム全滅。攻撃した那須野ヶ原高校第5ダンジョン部を勝ちとするか、それとも審判死亡ルールで失格とするか…。で、出た結論が失格であった。理由としては「これOKにしたらコイツら無敵じゃね?」という事らしい。確かにそうだよね。

 そんなわけで第5ダンジョン部は3回戦失格となり敗退となったのだ。


「ありがとうメガネ君。でも、不本意には違いないけど第1に勝てたのは嬉しかったかな。みんなお疲れ様でした。」

 フェミちゃんは言いたい事を言ってくれたメガネに感謝を伝え部長らしく今回の総評をした。

「そうだな。私達はまだ1年生だ。来年への課題や目標が出来たってところだな。」

 テレちゃんも満足気に言う。

「2人がそう言うなら…って言うか、僕だって…充実してたかな。」

 メガネにも笑顔が戻る。

「充実か…メガネは山内先輩に抱きつかれてデレデレしてたもんな。」

「な!!してないよ!絶対してない!!」

 メガネは激しく目が泳ぐ。バタフライかな?

「タマ君。私の彼氏に限ってそんな事はないよ。」

 フェミちゃんはにこやかに笑う。

「ん?」

「何?」

「彼氏?」

「うん。」

「お前らいつから付き合ってるんだ?知らなかったぞ!」

「特訓を始めた頃からだよな?」

 テレちゃんが2人の代わりに答えた。

「テレちゃんも知ってたのか?」

「ああ、フェミちゃんから聞いてたぞ。タマも知ってるかと思ってた。」

「あーあーそうですか。俺だけ仲間外れってワケですか。」

 タマは口を尖らせ昭和のマンガのように分かりやすく拗ねた。

「ごめんごめん。それよりも…」

 フェミちゃんがタマとテレちゃんを交互に見ながらニヤニヤする。

「2人も、もう良いんじゃないの?」

「「何が?」」

 ハモった。

「何が?じゃないよ。2人とも良い雰囲気じゃない。戦闘中にデートの約束なんかしちゃってたし。」

 聞いてましたか。

「「デ…デートじゃない!!お礼だよ!お礼!」」

 またハモった。

「ふ~ん。」

 バスは那須野ヶ原高校前の停留所に着いた。タマとテレちゃん、フェミちゃんとメガネに別れ帰宅の徒につく。


「しかし、丹澤先生も薄情だよな。いくら旧知の人達がいるからって生徒達だけ帰して自分は今晩宴会だなんて…。昼間からあんなに飲んでてまだ飲むなんて最早アル中なんじゃないのか?」

「はは…。まあ、先生らしくて良いんじゃないか?」

 しばしの沈黙が2人の間に流れる。暑さも落ち着き確実に日の短くなった空はうっすらと朱の侵略を受け始めていた。

「あの…今日はごめんなテレちゃん。」

「なんだよ。タマらしくないな。さっきも言ったろ?自爆の件はもう…。」

「それじゃなくて…いや、それもなんだけど、あの会長の攻撃の時のさ。」

 会長の絶命スキル『飛刀雷霆』からタマを庇ってテレちゃんが死亡したやつだね。

「ああ、あれな。気にするなよ。勝ったんだからあれが正解だと思う…いや、思わせろ。

 それにタマの奢りで映画に行けるんだから私的には得したもんだろ?

 それに、『ごめん』より『ありがとう』の方が私は嬉しい。」

 テレちゃんは白い歯を見せて笑った。

「うむ。ありがとうテレちゃん。」

「おうよ。」

 再び沈黙が流れる。

「あっ、あのさ!!」

 テレちゃんが突然裏返えった声を上げる。

「お!どうした!?」

 タマは軽くビクッとなり結果同じように裏返った返事になってしまった。

「そ…そんなに気にしてるならさ、もう1つ私の願いを叶えるってのはどうかな?……なんて……。」

「おう。何でも言うが良い。あ、でも金銭的には限界がありますんで、そこん所よろしくお願いいたします。」

「うん。…じゃあ……」


「タマ…玉乃井樹君、好きです。付き合って下さい。」


 

 マジか…。突然終わった全高ダン。そしてテレちゃんの告白。どうするタマ?ねえ、どうすんの?

 次回!!いろんな事の行方。……つづく!!

 あっ…作者は稲川淳二さんに心の中で土下座をしておくぞ。

 

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