第62話 分不相応なのです。

 第5ダンジョン部は盆栽園のダンジョンに来ていた。円卓会議の折り、メガネが提唱した全高ダン前に装備を調えアイテムも補充しておこうという意見を実行に移したのだ。この後フェミちゃんとメガネが特訓するのでこのダンジョンにしたらしい。

「さあ、順番に装備を買うわよ。まずはフェミちゃん。」

 ハンクスが抜けた事により丹澤慶子も一緒にダンジョンに入っていた。

 フェミちゃんがショップの石像に触れる。

「うわ…しばらく見ないうちに結構装備増えてる…。」

「多分、属性の付いた装備も増えてるだろうけど、全高ダンでは凄く有利になる時もあれば凄く不利になる場合があるから不向き

ね。無属性の武器にしておきなさい。」

「は~い。無属性で一番強いのは…これね。武器はマキナランスで防具もマキナアーマー、色はピンク。」

 フェミちゃんが鈍く光り新しい装備に包まれる。何やら歯車が組み込まれている機械のような装備だ。ロボットみたいだね。

「状態異常を防ぐ装備も買っておきなさい。一番恐いのは石化だから『ペルセウスの鏡』ね。え~と次はメガネ君。」

 ガシャガシャからガシャコンガシャコンと歩く音の変わったフェミちゃんがメガネに場所を譲る。

「え~と…あ…日本刀もある…陸奥守吉行って鈴木会長の武器だったよね。これにしよう。防具は動きやすさを重視してルーンブレストアーマーで、色は青。後、ペルセウスの鏡だね。」

 実にスムーズだし、色を指定するとは…色気付きやがったなメガネ。

「よろしい。次はテレちゃん。テレちゃんの場合は武器の属性は考えなくても良いわよ。攻撃は基本的にはしないからね。防具は無属性ね。」

「了解。う~ん…あっこれいいな。武器は矢返しの杖、矢も魔法もこれで迎え撃てば相手に返っていくんだってさ。防具は…名前は嫌だけど、死せる大魔導師のローブ…これが一番良さそうだ。それとペルセウスの鏡な。」

 テレちゃんも判断が早いね。例によりテレちゃんは黒でややセクシーな姿だ。

「さあ、いつも何かしらの問題のあるタマ君ね。慎重に頼むわよ。」

「はいはい。」

「はいは一回よ。」

「は~~~~~~~い。」

「あぁ…殴りたい…。」

 丹澤慶子、心の声が普通に声に出てるぞ。タマは石像に触れる。

「お!?おぉ!!」

「どうしたの?また凄い装備があったの?」

「これは…凄いぞ…。」

 タマは買い物を始めようとする。

「待って!!買っちゃダメよ!!」

「タマ君待って!!」

「ダメだ!!タマ君!!」

「おい!!タマ!!」

「へ?」

 全員に止められタマはアホ面でみんなを見る。

「タマ君が買っていいのはアイテムだけよ。」

 丹澤慶子がピシャリと釘を刺す。

「何でですか!?何で俺だけ!?」

 みんなは呆れたように溜め息をつく。

「な…なんだよ…。」

「タマ君…マー君の事忘れてない?」

「あ…。」

 タマが目をやると部屋の隅で膝を抱えていじけているマー君がいる。

「ご…ごめんマー君。あの…あれだよ…。マー君はもう仲間の1人っていうか…俺の装備って感覚がなくなってたんだよ。」

 あまりのいじけっぷりにマー君にいつも文句しか言わないタマが優しい言い訳を口にする。マー君はメガネに書く物を要求する仕草をした。

「筆記用具かな?はい。」

 マー君は例の如く達筆でサラサラと何やら書くとタマに渡す。

「なになに…『バーカ、バーカ』………何だとコノヤロー!!!」

 マー君に躍りかかろうとするタマをみんなが止める。

「タマ君!今回はタマ君が悪い!」

 メガネが諭す。

「『今回は』…じゃなくて『今回も』だけどね。」

 丹澤慶子、煽るなよ。

「ね…ねえ、マー君、武器は…武器は換えても大丈夫なのかな?」

 フェミちゃんはタマを止めながら話を逸らそうと必死だ。マー君はコクコクと頷く。

「ほら、タマ。武器は買っていいって!楽しみだな。どんな武器があるんだ?」

 テレちゃんもフェミちゃんの話に乗っかる。

「むう…。みんなに免じてここは収めてやろう。」

 落ち着きを取り戻したタマ。元々はお前が悪いのを忘れるなよ。

 タマは再び石像に触れる。

「さっき気になったのはこれだよ。「最強のヒノキの棒」防具は買わないけど「最強の布の服」ってのもあるぞ。」

「……所詮ヒノキの棒だよな?」

 テレちゃんが思わず口にする。

「所詮とはなんだ!最強のヒノキの棒だぞ!!きっと凄まじい攻撃力に違いない。さて…これを…。」

「待ちなさい。他にはないの?剣とか…そういうの。」

 買おうとしていたタマを丹澤慶子が止める。

「他?う~ん。じゃあこれか?剣かどうかは分からんが…買っちゃえ。」

「だから待ちなさ…」

 遅かった。タマは何やら買ったようだ。マー君の手元の魔剣グラムが光り、新たな武器が出現する。

「これは…見た事のない武器ね…。」

 丹澤慶子がまじまじと観察する。1メートル程の両刃の剣だ。刀身には何やら文字が書かれている。

「これは神代文字ですね…。」

 物知りメガネが言う。

「神代文字って?何て書いてあるの?」

 フェミちゃんが聞く。

「日本に漢字が伝わる前に使われていた文字の総称だよ。色んな神代文字があるんだけど、その一種だね。さすがに読めないけど…。タマ君、これ何て名前なの?」

「ん?アメノハバキリって名前らしいぞ。」

「アメノハバキリ…あ…日本神話でスサノオノミコトがヤマタノオロチを倒した剣の名前だね。先生、僕の知る限りダンジョンでの武器にはなかったように思うんですけど…。」

 みんなが丹澤慶子を見て返答を待つ。腕組みをした丹澤慶子がしばらく考えた後に口を開く。

「聞いた事ないわね。でも、刀身は短いからリーチは期待出来ないわね。」

 その時、マー君が剣を一振りする。すると部屋の反対側の壁に大きな刀傷が音もなくついた。

「……これ、かなり凄い武器なんじゃないのか?」

 テレちゃんが刀傷を見ながらぼそりと呟く。

「おいコラ、離せ…マー君…。」

「タマ君何してるんだよ。」

 タマがマー君からアメノハバキリを奪おうとしている。

「これは俺のだ。これさえあれば俺でも…」

 気持ちは分かるぞ。何とか剣を奪いタマは剣を振る。振り慣れていないせいでゆっくりヘロヘロとした剣筋だ。

「あれ…?」

 今度は気合いを入れ先程より鋭くヘロヘロと振る。結局ヘロヘロとしか振れないのだな。

「なんも起きないじゃないか!!」

 タマが剣を叩き付けようとした所をヒョイとマー君が受け取る。

「タマ君、勉強になったわね。何を使うかよりも誰が使うかが重要なのよ。まあ、一言で言えば『お前には無理』って事ね。」

 容赦ないな丹澤慶子。まあ、事実だけどね。

「タ…タマ君!君には回復役っていうとても…とっても重要な仕事があるんだ!」

 メガネが力説して何とかタマのモチベーションを上げようとしている。

「そうよ。タマ君が回復してくれたらとっっっても助かるんだから!」

 とって付けたようにフェミちゃんが励ます。

「私もアンデット操作と魔法攻撃に集中出来るから…あの、本当に助かる。」

 テレちゃんは本心みたいだね。

「分かったよ…。アイテム買えばいいんだろ。…この上級回復薬ってのをたんまり買えばいいのかな?」

「今の所持金で買えるだけ買っておきなさい。足りなくなるのだけは避けたいからね。」

 丹澤慶子は先程の暴言がなかったかのように言った。

「は~い。じゃあ、2500個位買えるな。」

「……前言撤回。100もあれば充分よ。あなた一体いくら持ってるのよ…。」

「500万はあります。因みにさっきの剣が1500万しました。」

「……やってらんないわね。」

 こうして全高ダンに向けての準備は調った。ちなみにタマは言わなかったが「最強のヒノキの棒」の価格は1800万だった。本当に最強の武器だったのかもしれない…。

 

 次回!!……ってあれ?


「おい。タマ、あそこ歩いてるのハンクスじゃないか?」

 盆栽園のダンジョンから出て、オバケダンジョンに向かう途中、テレちゃんが遠くを歩く人影を指差す。普通ならば見えない距離だが、水族館のダンジョン報酬「視力回復」のお陰で見える。

「うむ。ハンクスだな。あれ?一緒に歩いてるのは…山内先輩?」


 改めまして次回!!なぜか映画鑑賞!!………つづく!!




 

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