第60話 晴天の霹靂を簡単に言うと晴れた日の雷なのです。

「あの~…。そろそろ降ろしてくれませんでしょうか?」

 ハンクスは部活棟の裏にある桜の木に吊るされていた。その周りを大勢のジャージ姿の生徒が取り囲んでいる。その輪の中から鈴木会長が歩み出る。

「え~と…塩野谷君だったわよね?」

 その表情からは感情の欠片も感じられない。

「…はい。」

「どういった用件で第1ダンジョン部を嗅ぎ回っているのかしら?部室まで覗くだなんて最早犯罪の域よ。」

 ついに犯罪に手を染めてしまったかハンクス…。取調室でのカツ丼が楽しみだな。

「ち…違うんです!!僕はただ…」

 ハンクスは口ごもる。

「ただ?何かしら?」

「………。」

「羽柴、本田、坂本…。」

「はい!」

 男ABCだね。呼ばれた3人はゆっくりとハンクスに近づく。

「え?何するんですか!?止めて下さい!ギャー!!」

 ハンクスの悲鳴が響き渡る。男Aがハンクスを抑え、男BCが足つぼマッサージを強目に行っている。

「どうかしら?早く白状しないとあなた…健康になるわよ?」

 いいんじゃないかな?それを木陰から見守る生徒が1人。

「健康マッサージという完璧な言い訳が出来る拷問…。鈴木会長…恐ろしい子……。」

 2年2組桑名七海(くわな ななみ)、たまたま通りかかった帰宅部である。今後登場する予定はない。

「言います!!言いますから!!」


 ハンクスは木から降ろされ第1ダンジョン部の部室で正座させられていた。部室にいるのは鈴木会長と男ABC、そして山内の第1ダンジョン部一班のみである。部室が狭いという事もあるがハンクスが話しやすいようにとの鈴木会長の優しさの半々の理由だ。まさにバファ○ン状態である。

「さあ、話してもらいましょうか?今更私達へのスパイ行為ってワケでもないでしょう?」

 鈴木会長は優しく落ち着いた様子でハンクスに聞く。追い込んだ後の優しさ、自白させる常套手段である。

「…はい。…実は……」



 その夕方、『テレちゃんオバケ嫌い克服キャンペーン』からの帰り道、タマはテレちゃんと自転車を押しながら歩いていた。その時、タマのスマホが鳴る。

「……。」

「どうしたタマ?電話出ないのか?」

 タマはスマホの画面を無言で見つめている。

「誰からなんだ?」

 テレちゃんが画面を覗き込むとそこには『丹澤慶子』と表示されている。

「先生からじゃないか!早く出ろよ。」

「テ、テレちゃん…お…俺、何かしたかな?」

 タマの身体は恐怖でガタガタと震えている。

「まあ、色々してるだろうな…。覚悟を決めて出ろ。」

「仕方ないな…。はい!もすもす!」

 タマは『もしもし』を噛んだ。

『あっタマ君?今日ハンクス君と一緒?』

 噛んだ事はスルーされました。

「いえ、一緒じゃないっすよ。ここ数日授業が終わったら一目散にどっかに行っちゃうんですよ。」

『そう…。実はフェミちゃんとメガネ君の特訓が終わって職員室に帰ったら、私の机の上にハンクス君の退部届けがあったのよ。何か聞いてない?』

「え!?」

 タマはあまりの事に言葉を失う。いつもと違う様子のタマをテレちゃんは心配そうに寄り添っている。

『その様子じゃ何も聞いてないみたいね…。分かった…。明日私から聞いてみるわ。この事はまだみんなには言わないでね。何かの間違い…とか、気の迷いかもしれないから。』

「はい…。分かりました。」

 そう言うとタマは電話を切る。

「タマ…。どうしたんだ?何かあったのか?」

 テレちゃんがタマの袖口を掴みながら聞く。何か傍目には恋人同士にしか見えないぞ…お前たち…。

「何かハンクスが退部届けを出したらしい。」

 おいタマ!!たったさっきみんなには言うなって言われなかったか!?

「な…なんだと!?大事じゃないか…。ちょっと私、フェミちゃんに連絡取ってみる。」

 そう言うとテレちゃんはスマホを取り出し電話をかける。

『は~いテレちゃん。』

 フェミちゃんが元気よく電話に出る。

「あっ。今電話大丈夫か?」

『うん。大丈夫だよ。どうしたの?』

「実はな…。どうやらハンクスが退部届けを出したみたいなんだ。」

『え?どういう事?』

「まだよく分からないんだけど丹澤先生からタマに何か聞いてないかって電話があったんだよ。」

『そう…なんだ…。ちょっと待ってね。ねえ、メガネ君、ハンクス君が退部届け出したんだって…どうしよう…。』

 やっぱり一緒にいたのね。そしてこれで第5ダンジョン部全員にこの事は周知されてしまった。

『うん…うん…。そうだね。…テレちゃん、今メガネ君とも話したんだけど、明日みんなで一度集まって話さない?もしかしたら何かの間違いかもしれないし、一時の気の迷いかもしれないから…。』

 丹澤慶子と同じ事言うね。

「おう…そうだな…。うん、タマにも伝えておく…。じゃあまた明日。」

 テレちゃんは電話を切るとふうと溜め息をついた。

「タマ、フェミちゃんが明日みんなで…って…おい、何してるんだ?」

 タマはマンションの駐車場で舞を舞っていた。両手には『ハンクス』と書かれた紙を突き刺さしたシャーペンが握られている。そして頭にはマジックで『呪』の1文字が書かれたハチマキの様なモノが巻かれている。

「おい!!タマ!!」

 一心不乱に舞うタマにテレちゃんは再び声をかける。

「テレちゃん!俺は今猛烈に怒り狂っているのだよ!」

「それは分かる…分かるけど何してんだよ!」

「見て分からないのか?ハンクスに呪いをかけているのだ。」

 そうそう、見れば分かるよね。呪いをかけてるって……分かるか!!…やりなれないノリツッコミはするもんじゃないね…。

「そんな事したって意味ないだろ!恥ずかしいから止めろよ!」

「テレちゃんは先に帰っていてくれ。俺はもう少し舞ってから帰る!…ハンクスの鼻毛普通より早めに伸びろ~…ハンクスの食べるアサリ全部砂入っててジャリッとしろ~…ハンクスの母ちゃんの天ぷらビチャッとしろ~…。」

 地味に嫌な呪いだな。でも、最後のはハンクスじゃなくてハンクスの母親への呪いだろ?その時、一台のパトカーが停まり2人の警察官が降りてくる。

「ちょっと君達、ここで何してるんだい?」

「何って、ちょっと呪いを…」

 タマは警察官が来ても舞うのを止めない。

「呪い?」

「あ、え~と…今、体育の授業でダンスをやってて…こいつ覚えるのがノロイんで練習を私が見てやってるんですよ。ここじゃマズイですよね!!ほら!タマ、あっちの公園でやろう!!」

 テレちゃんはタマを強制的に止めさせその場を去った。


「……なあ、今はああいう踊りが流行ってるのか?」

 中年の警察官が若い警察官に聞く。

「僕に聞かれても分からないですよ。でも高校生が踊ってるんですから、きっと流行ってるんでしょうね。」

「そうか…。こんな感じだったよな?」

 中年警察官は見よう見まねで踊ってみる。

「そんな感じでしたね。上手いじゃないですか。」

 その晩、中年警察官は高校生の娘にその踊りを披露するのだが…。まあ、結果は何となく分かるよね。ごめんよ中年警察官。


 次回!!緊急会議!!…つづく!!

 


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