第49話 困った事になったのです。

「見える…。」

 メガネは周りを見渡した。眼鏡は掛けていない。

「凄く良く見える!!」

「メガネ君?」

 フェミちゃんが不安そうに声をかけるとメガネをフェミちゃんを見つめた。

「眼鏡越しじゃないフェミちゃんが見られるなんて思わなかったよ。」

 イチャつくな。

「まさか…。他のみんなはどう?

 そうだ、あの砂浜の端っこの建物の看板読める?」

 丹澤慶子は豆粒程にしか見えない建物を指差す。

「え~と、『海の家伊豆屋』って書いてありますね。大洗なのに伊豆屋って…ぷぷぷ…。」

 ハンクスが笑う。そんなに面白くないぞ。腹立つ。

「その下の別の看板に『焼きそば、ラーメン、ナシゴレン』って書いてあるな。ナシゴレンってなんだっけ?」

と、テレちゃんが言う。説明しよう。ナシゴレンとはインドネシアかどっかのチャーハンみたいなやつに確か目玉焼きが乗っていたような気がする料理だ。説明がいい加減だって?いいじゃん、知りたければ自分で調べればいいじゃん!!

「う~ん…。」

 タマが意識を取り戻した。

「タマ君はあの看板見える?」

 何事もなかったように丹澤慶子が聞く。

「看板っすか?え~と…『飲んで歌って2000円ポッキリ、スナック脂汗』だな。」

 そして何事もなかったようにタマは答えた。気絶に慣れるのは如何なものだと思うぞ。

「ちょっと、どこの看板読んでるの?」

「どこってあの看板ですよね?あの丘の真ん中くらいにある…」

 タマは海の家の遥か先の丘を指差す。

「これは間違いなさそうね…。リヴァイアサン討伐おめでとう。」

「え?もしかしてこれって水族館ダンジョン攻略報酬の視力アップ?」

「さすがフェミちゃん予習済みね。要するにあなた達はリヴァイアサンと相討ちだったって…事だと…思うわ。」

「先生のくせに歯切れが悪いですね。」

「『くせに』ってのにカチンと来たけど…。しょうがないじゃない。リヴァイアサンを倒すほどの自爆スキルなんて聞いた事ないわ。」

「自爆スキルはAランクの忍者とアサシンが使えますよね?あ…後、マーベリックのギャンブラーも近いスキルがありましたね。」

「メガネ君もさすがね。でも、今言った全てのスキルでもリヴァイアサンレベルを倒す事は出来ないし、仲間を道連れにする事もないわよね。」

「先生質問です!!」

 タマが勢いよく手を挙げる。

「はいタマ君。」

「何でそのスキルが『肝吸いはなくてもいいや』って名前なんですか?」

「知りません。」

 一言で一蹴した。

「まあ、全滅も経験出来たし報酬も貰う事も出来たし万々歳だね。そうだ…みんな、もうダンジョン入りたくないって人いるかな…?」

 フェミちゃんは恐る恐るみんなに聞く。それは昨晩、丹澤慶子が言った死亡を経験すると怖くなってダンジョンに入れなくなる人がいるからだ。

「大丈夫。」

「大丈夫かな。」

「問題ない。」

「おうよ!!」

 みんなの言葉にフェミちゃんはホッとしたのか笑顔になった。

 ちなみに作者も怖くなって出来なくなった事がある。中学生の時に美術の時間に何作ってたかは忘れたんだけど途中で電動糸ノコギリの刃が折れて飛んで来てさ、作者の眼鏡にぶつかったんだよ。

 いや~あの時はびびったね。もし眼鏡してなかったら…と思うとゾッとするよ。だから今でも電動糸ノコギリは使えない。みんなも電動糸ノコギリには気を付けようね!!ん?そんな機会ないって?……作者もない!!


「そんな事より困った事になったぞ…。」

 タマの言葉に一堂の視線が集まる。

「困った事って何かあったタマちゃん?」

「みんな気付かないのか?」

 タマの表情は真剣だ。事は重大なようだ。

「タマ、勿体ぶらずに言えよ。どうした?」

「………。」

「タ…タマ君?」

「……真面目マッチョ。」

 眉間に皺を寄せタマは呟いた。

「え?何?真面目マッチョって?」

 フェミちゃんはわけも分からず繰り返した。他のみんなも「?」状態だ。

「決まってるじゃないか!!目が良くなったんだぞ!!」

「う…うん。」

「メガネがメガネじゃなくなるじゃないか!!だから新しいアダ名を考えたんだよ!!」

「た…確かに…それで真面目マッチョか。」

 テレちゃん、真剣に相手する必要はないと思うぞ。

「文句があるならみんなも考えろ!!なあメガネ!!」

「え?あ…ああ、そうだね。じゃあさ、“元メガネ”って事でどうかな?」

「言いづらい!!却下。」

「石ちゃんは?」

 石田良(いしだ りょう)、メガネの名前である。作者も忘れていて読み返しちゃったよ。

「フェミちゃん、名字から取るなんて安易過ぎる!!却下。」

 タマ、お前も安易に名字の玉乃井から取ってるじゃないか?

「フェミカレ。」

「ハンクス、フェミちゃんの彼氏という意味だな?どうだ二人とも?」

「え?いや、まだ彼って訳じゃ…。」

「まだ?」

 二人は赤くなり黙ってしまった。ちくしょう…若いっていいな~!!!!!

「うむ。まだみたいだから却下。テレちゃんは何かないのか?」

「お…おう…え~と…あの…そうだ!…じゃなくて…真面目…いや…メガ…」

「はい時間切れ~。先生は?」

「私も考えるの?じゃあ、68。」

「68?」

「メガネ君の偏差値よ。43…じゃなかった、タマ。」

「先生、何気に俺の偏差値をバラさないでいただけますでしょうか…。傷付いたから却下!!やっぱり真面目マッチョで…。」

「それこそ言いづらいじゃないか!」

「何だと?よ~し、こうなったら徹底的にみんなが納得するアダ名を考えようじゃないか!」


 それから海で遊びながら、ランチを食べながら、帰りの丹澤慶子の車の中でメガネの新しいアダ名を考えた…主にタマがだけど。

 …で、どうなったかというと、タマがあまりにもしつこいので遂にメガネがキレ、「目は良くなったけど、僕は伊達眼鏡をかける!!」と宣言し、ここに目の良いメガネが誕生したのである。


 こんなグダグダな合宿の終わり方になるとは思わなかったね。でも部活としても、恋にしてもなかなかの進展があったんじゃないかな。さて、次回!!那須野ヶ原高校の伝説にタマが挑む!!……つづく!!

 

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