第47話 何事も経験なのです。

 さて、合宿を延長した第5ダンジョン部だが、翌日海で遊ぶと思いきや水族館のダンジョンに来ていた。それは前日の夕食をホテルでとっている際の会話から始まる。


 その日、丹澤慶子の飲酒のせいで帰れなかったにもかかわらず丹澤慶子はハイボールを煽っていた。さては反省してないな…。タマといえば丹澤慶子の奢りだからという理由で追加の料理を遠慮する事なく注文していた。

「刺身の盛り合わせとカワハギの薄造り…このシーフードフライと…アワビの…」

「タマ君…いい加減にしたら?絶対に食べきれないでしょ?」

 見かねたフェミちゃんが注意をする。

「みんなで食べようと思ったんだが…フェミちゃんもカワハギの薄造り肝醤油で食べたくない?」

「……食べたい。」

 おいフェミちゃん。

 丹澤慶子がジョッキをドンッとテーブルに置く音に皆がびくついた。怒ったのかな?

「決めたわ。」

「決めたって何をですか?」

 メガネが恐る恐る聞く。

「あなた達、明日午前中ダンジョン行って死んで来なさい。」

「へ?」

 一同は食事をする手を止め丹澤慶子に注目した。

「ちょっと先生!!そりゃ俺も頼み過ぎたかもしれませんよ?でもね、こうなったのは先生の飲酒が原因じゃないっすか。それを嫌がらせのように死んで来いとは仏のタマちゃんと呼ばれた俺でもさすがにブチキレますぜ。」

 誰がいつ呼んだんだ?

「あ、ごめんごめん。自分でも驚く程に言葉が足りなかったわ。

 あのね、あなた達は今まで運良く、そして奇跡的に全滅どころか誰一人として死亡した事がないわよね。」

「ええ、何か問題でもあるんですか?」

 フェミちゃんが言うと一同コクコクと頷き同意する。

「大ありよ。いい?あなた達が人間相手で闘う場合何を目指す?」

「ちょっと何言ってるか解んないすけど。」

 おい。

「タマちゃん、少しは考えようよ…。相手を倒す事ですかね。」

 ハンクスが失恋以来初めて丹澤慶子と話す。もう大丈夫かな?

「そうね。あわよくば全滅を狙うわよね?もちろん相手もそうなの。そして、ここからが重要なんだけどね。現実の死とは違うんだけど死亡はやっぱり恐いものなの。当たり前よね。」

 丹澤慶子はハイボールを一口飲み、言葉を続ける。

「…で、私のそこそこ長いダンジョン経験で死亡が原因でダンジョンに入れなくなった人を何人も見てきたのよ。大会中にそうなったら困るでしょ?一度経験しといた方が良いと思うの。」

「なるほど。言ってる意味は解かりました。私はやってみる価値はあると思うんだけど、みんなはどうかな?」

 フェミちゃんがみんなに問いかける。

「僕も賛成かな。何事も経験は大事だと思う。」

 メガネも賛同する。久しぶりに言おう…真面目か!!

「僕もOKだよ。」

 ハンクスもイルカで度胸がついたのか男らしく答える。

「みんながいいなら私も断る理由はないな。」

 テレちゃんもいいみたいだね。

「じゃあ、とっとと全滅して早く海で遊ぼう。」

 軽いなタマ。

「決まりだね。先生、リヴァイアサンと戦えばいいんですね?」

「そうよ。」

「メガネ、リヴァイアサンってなんだ?」

「水族館のダンジョンのボスだよ。知らなかった?」

「ふ~ん。先生、わざと負ければいいんですね?」

「わざとである必要はないわ。多分、絶対、間違いなく勝てないからね。」

「そんなに強いんですか?」

「私はレベル80過ぎに戦って負けているわ。もちろん仲間も80オーバーの猛者達だったけどね。勝ったのはレベル100になってからよ。」

 テーブルにタマが追加注文した品々が届いた。

「来~た~!!いただきま~す!!」

 タマはカワハギの薄造りを肝醤油につけて口に運んだ。

「うま!!これうま!!うま!!!」

 うるさい!!!

「タマちゃん、それにはマヨネーズつけないんだね。」

 あ…確かに。ハンクスよく気が付いたな。

「何言ってるんだハンクス。カワハギにマヨネーズは合わないだろ?」

「いやいや、この前居酒屋で刺身にマヨネーズつけてたじゃない?」

「ああ、マグロとかハマチとかイカとかな。あれはマヨネーズが合うじゃないか?」

「ごめんタマちゃん…僕には基準が分からないや…」


 …と、いうわけで現在に至るワケだ。え?「最後のカワハギのくだりはいらないだろ?」だって?


 そうだよ。


 そんなこんなでダンジョンに来ているワケだ。

「意外と奥に長いんだな。あの扉かな?」

 突き当たりに他とは大きさも造りも明らかに違う扉がある。

「作戦の確認しようか。リヴァイアサンの属性は水だから弱点は土だけどハンクス君とテレちゃんは回復に専念してね。私とメガネ君とマー君は戦闘開始と共に散会して共倒れを防ぎつつ攻撃。タマ君は例によって自由だけどテレちゃんをよろしくね。」

「よし!!頑張って全滅するぞ!!」

 それは何か違うぞタマ。

「タマ、ダンジョン歴の短い私が言うのも何だがどこまでやれるか試すのも大事だからな。簡単に死ぬなよ。」

 もっと言ってやれテレちゃん。

 フェミちゃんとメガネがゆっくりと扉を開く。そこには白大理石で出来た広い空間があり、所々に大きな水晶が生えている。その部屋の中央にサファイア色の竜が横たわっている。寝てるのかな?

「あれがリヴァイアサン…何か綺麗でかっこいいね。」

 フェミちゃんだけでなく皆その美しさに見とれている…タマ以外は。

「うむ…あの鱗をネットで売ったら儲かりそうだな。持って帰れないのが残念だ。」

 その言葉に怒ったのかどうかは定かではないがリヴァイアサンは目を開け首を伸ばしてこちらを見据える。

「行くよ!!散会!!」

 フェミちゃんの声で前衛組は走り出した。


 次回!!リヴァイアサン戦!!まあ、全滅するのが目的だから結果は分かってるんだけどね。心配なのはこの戦いよりも丹澤慶子がまたうっかり飲んでしまっていないかという事だ!!………つづく!!


 


 

 

 

 

 

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