異世界への復讐 世界は俺が支配する

昆布 海胆

前編 力の目覚め

「お目覚め下され・・・お目覚め下され・・・」


体を揺らされ目がゆっくり開く・・・

そうだ、早く起きないと学校に遅刻する!

上体を起こして俺は目を疑った・・・


「ををっ勇者様の光臨だ!」


そこは見た事も無い石で出来た建物の中であった。

目の前に居る3人の老人が自分が目を覚ました事を嬉しそうにしている・・・

いや、ちょっと待て・・・

ここは、何処だ?


「混乱されているのは仕方ありません、勇者様は我々の召喚魔法でこの世界へお呼びさせてもらいましたのじゃ」


老人の一人がそんな事を言っているが自分はそれどころではない、パジャマ姿で布団ごとここへ運ばれて寝ていたのだ・・・

ん?召喚魔法?勇者?


「それでは我等の王がお待ちです。どうぞこちらへお越し下さい」


うん、これは夢だな。

俺はもう一度布団の中へ潜ろうとしたのだが突然布団が風で吹き飛ばされた。


「申し訳ございません、ですが時は一刻を争うのです!」


意味が分からないまま何処から現れたのか分からない兵士に立ち上がらされ両腕を組まれてそのまま連行される・・・

流石に鎧の金属が冷たくて目が覚めると共にこれが夢でない事を理解できた俺は急に怖くなり抵抗しようとするが・・・


「落ち着いてください勇者様!」


左腕を持ち上げている兵士から発せられた声が女性のモノと分かり驚きに固まる。

自慢じゃないが俺は太っている、体重80キロはあるのに軽がると俺の腕を持って体を2人で持ち上げているのだ。

そして、そのまま扉を出て廊下を歩き綺麗な装飾に包まれた部屋へ連れて行かれた。

勿論パジャマのままだ。


「勇者殿、突然のお呼び出し申し訳ございません」


顔を上げると正面に一段高くなった場所に座る偉そうにしている男性が国王だと直ぐに分かった。

頭に金色の王冠を被って赤と白のマントを羽織っている。

その横に立っていた大臣と思われる男性が頭を下げて謝っている、だが国王は偉そうに肘を立てこちらを品定めするように見ている。


「勇者様、混乱されていると思いますがお話をお聞き下され」


そう言い大臣は説明を開始した。

良くある魔族がこの世界を支配しようとしていて世界が滅びる危機なので勇者を召喚したというテンプレ展開に前に読んだ漫画を思い浮かべた。

そして、物語に良くある水晶玉に手をかざしてステータスを確認させられたのだが・・・




高橋 高志

職業:勇者?

レベル:MAX

攻撃:3

防御:3

速度:3

魔力:3





その表示を見て誰もが固まった。

職業に?は付いているし、なにより・・・


「れ・・・レベルMAXなのになんだこの弱さは?!」


兵士の一人が驚きの声を上げる。

それはそうだろう、説明の時に手をかざした兵士はステータスのどれもが3桁はあったのだ。

そして、レベルがMAXと言う事はこれ以上強くならないと言うことでも在る。


「国王、どうやらまた失敗のようです」

「ふんっ牢屋にでもぶち込んでおけ」

「ハッ」


そう言われ有無を言わせず先程までの態度と打って変わって高志はパジャマ姿のまま連行され牢屋に入れられた。

一体何がどうなっているのか困惑しているのだが声を発する事も身動きをとる事も出来なくなっていた。

どうやら何か魔法をかけられた様で水晶玉の表示を見てから自分の体が自分の意思で動かなくなっていたのだ。


「ちょっちょっとどういうことですか?!」

「うるさい、失敗作に用は無い!」


それだけ告げられて兵士は踵を返して去っていく・・・

鉄格子を掴んだまま高志はその場に座り込む・・・


「一体何がどうなってるんだよ・・・」

「貴方も失敗って言われたみたいだね・・・」

「だ、だれ?」


隣の牢屋から声が聞こえた。

女性の声である。


「私は明美、仕事から帰って自宅で寝てたらここへ召喚されたの・・・」


仕事と言う言葉から自分よりも年上だという事が分かったが隣を覗く事が出来ないのでどんな容姿をしているのか分からない。

話し方から日本人だとは思うのだがそれも核心が持てないのだ。


「僕も同じです。しかもパジャマのままですよ・・・」

「ハハッ私は飲んで帰ってそのまま寝ちゃったから仕事着だよ・・・」


そんな隣の明美さんと会話するだけの生活が始まるのだと高志は考えていた。

だがそれは甘かった・・・


「しかし、こんな人生の終わり方なんてね・・・」


明美さんがそんな事を言うので高志は疑問に思い尋ねる・・・


「私ね、2日前にここに入れられたんだけど・・・一度も食事なんて運ばれてこなかったんだ」

「えっ・・・」

「私が来た時には私のもう一つ隣に誰か居たんだけどもうその人の声も聞こえないんだ・・・」


それは間違い無くこの国の人間が餓死するまで放置している事に他無かった。

そんな非現実的な言葉に高志は理解が追いつかない・・・


「だから高志君ももう諦めた方が良いよ」


明美さんのそんな言葉が耳を素通りしていく・・・

嫌だ・・・まだやりたい事もたくさんあるんだ。

高志は苦悩した。

だが高志の世界はこの狭い牢屋の中が全てである。

絶望に沈むのは直ぐであった。

叫ぼうが暴れようが誰一人来ることも無く、明美さんも何も言わずにいた。

きっと彼女も同じように暴れたのだろう。


そうして小さな小窓から見える空が暗くなった。

冷たい空気が流れる中、高志は小さく丸まって横たわって寝ていた・・・

泣き腫らした顔が酷いことになっているが水も無いので洗うことすら出来ずに居た。


「お腹・・・すいたな・・・」


明美さんのそんな声が聞こえた。

そうだ、明美さんはもう3日も飲まず喰わずで居るのだろう。

この理不尽な現状に高志は怒りを覚え始めた。

何故自分がこんな目に合わないといけないんだ?

腹のそこから沸々とこの世界の住人に怒りが湧き上がる。

仕返ししてやる・・・絶対にだ!

高志の目の奥で小さな炎が燃え上がり彼の頭の中で何かが弾けた!


「この鉄格子が無ければ・・・」


いつの間にか立ち上がっていた高志は鉄格子に向かって怒りを向けた。

その時、頭の中に不思議な現象が起こった。

まるで何かを思い出した様にその力の使い方を理解したのだ。

高志は鉄格子の鍵の部分を睨みつけて力を使った!


メキメキメキ・・・バキンッ!


鍵の部分はまるで何かに押しつぶされるように変形し地面へ落下した。


「なん・・・だ・・・この力・・・」


高志は自分のやった事に驚きながらも牢屋から出て隣の牢屋を覗き込んだ。

そして、それを見てしまった。


「あ、明美さん・・・」


壁にもたれるように膝を抱えて座り込み震える女性が居た。

目が虚ろになっており髪もボサボサで死を覚悟したその女性を見て高志は迷わず力を使う!

そして、開いた鉄格子から中へ入り明美の体を抱きしめる。

冷たい・・・


「あっ・・・?」


高志の体温を感じて明美は反応を示した。

人は水分を取らないと丸2日で脱水症状により生命の危機に陥ると言われている。

高志は以前テレビで見た話を思い出して彼女を救う為に方法を考える・・・

そして、他に方法が思いつかず仕方なく自らの左手の指先を壁の欠けた石にあてがって横へ滑らせる!


「痛っ!」


欠けた石で切れた指先から血が滴りその指を明美の口の中へ運ぶ。

意識が朦朧としていた明美であったが口の中へ入ってきたそれが水分だと分かりゆっくりだがそれを舐め始めた。

本当に偶然であった。

高志は以前テレビで閉じ込められた親子が母親の血液を水分として娘に与えて子供が助かったと言う話を思い出してこの行動に出たのだ。

今初めて会ったばかりの女性ではあるが高志にとっては唯一の仲間といっていい彼女に親近感を覚えていたのだろう。

少しして、血が止まったのだろう明美が我に返って口を離す。


「えっ?あれ?えっ?」


疲れ果てた顔をしているが自分がなにをやっていたのか理解できない状況に混乱している彼女を高志は彼女の腕を肩に回し立ち上がらせる。


「明美さん、ここを出ましょう」


どうなっているのか分からない明美は頷き高志と共に牢屋を出て行くのであった。

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