第4話
ガントレイド砲。
そのあまりに凄まじい破壊力を持つ砲の一撃は、アストルヒィアとクラルデンの前衛艦隊との戦場にも一時の静寂をもたらした。
「何、と…」
たった一度の砲撃で、重装甲で名をはせるクラルデンの20隻以上いた艦隊は跡形もなく消し飛ばされてしまった。
冷却シークエンスに入ったガントレイド砲が噴き出す蒸気に、戦場に喧騒が戻る。
「た、退却…」
旗艦が消し飛んだ。
それを見て戦闘を続行しようなど、如何にトランテス人といえど無理である。
むしろアストルヒィアの艦隊も同じように呆然として手が止まっている隙に離脱するのが賢明だった。
何も考えられなくなっていたクラルデンの艦隊は、どこからともなくそんな通信が出たことに異論も出せず、それに従って離脱することを最優先とした。
最終的にクラルデンの艦隊が離脱し終えたところで、ようやくアストルヒィアの側も動き出す。
「て、敵艦隊、宙域より全艦撤退…」
索敵担当の言葉は、すなわちアストルヒィアの勝利意味するもの。
だが、誰1人としてそれを素直に喜べなかった。
「まさか、あそこまでなんて…」
呆然とつぶやくアミュレットの言葉に、返事ができるものは1人もいなかった。
こうして、渦巻銀河外縁で行われた戦争の一幕は終了となる。
ポラス艦隊軍帥であるポラスはこの戦闘で愛艦であるポライアーゼを失ったものの、実を言うとこの威力偵察に出ていた艦隊はポラス艦隊のなかでもほんの一部の戦力に過ぎない。
だが、ガントレイド砲の破壊力を知ったポラスはそれ以上の侵攻は困難と判断し、このガントレイド砲のデータを可能な限り持ち帰ることを優先する。
あまりの破壊力とどこから撃ってきたのかもわからないままに敵を殲滅するこの超兵器は今までも何度か砲撃がなされているが、それを受けて生還を果たしたのはこのポラスが初めての例である。
ポラスはその後大帝バグラの指揮のもと、様々な戦場に従軍し、ポライアーゼを無くしてからは新造のゴリアテ級重戦闘母艦[リエスティーゼ]を旗艦として多くの戦場に活躍し、多大な戦果を上げる。のちに惑星テラに対する大帝率いる侵攻作戦に従軍、ガトノ艦隊とともに第三陣として38,000隻の艦隊を率いて最後の戦いを行い、惑星マルス軌道の艦隊戦で内惑星防衛艦隊を壊滅に追い込む戦果を上げる。機動彗星要塞都市の崩壊に巻き込まれガトノ艦隊とともに全滅してしまったが、ポライアーゼを失ってから数多の戦功をあげ続けたその名はバグラの黄金時代を支えた12の偉大なる軍帥の名の1つとしてクラルデンにおいて長きにわたり伝説として残ることとなった。
一方のこの戦いでクラルデンの軍帥から勝利を得たアミュレットは、特将提督に昇進。渦巻銀河外苑警邏艦隊司令からシャイロン星雲戦線の総司令官に栄進して、生涯にわたり愛艦としたミュゼルグードを駆使してバラフミア王朝やフラスネア協商、時にはクラルデンの艦隊とも戦い、その先でとある若き軍帥と対峙することになる。
しかし、それはまた別の物語。
…これは、クラルデンの全盛期を築いた大帝バグラの築いた大いなる戦乱の時代の一幕。
2人の名将が、己の運と知略をかけてぶつかり合った辺境の戦闘の記録である。
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