341 エピローグ 12月24日 夕方 あなたに会いたいな。
エピローグ
……七年後。
12月24日 夕方 あなたに会いたいな。
照子は自分の部屋の中で目を覚ました。……また変な夢見ちゃったな。照子は机の上を寝起きのぼんやりとする頭で観察した。寝落ちする前の状況をだんだん正確に思い出してきた。たくさんの資料が、山積みになっている。照子の机の上には、電源が入ったままの白いノートパソコンが置いてあった。
「……そっか。私、また失敗したんだ」
誰もいない部屋の中に、照子の独り言だけが空中に浮いている。照子は背筋を伸ばす。変な体勢で寝てしまったのか、首がちょっとだけ痛かった。どうしてうまくいかないんだろう? 理由が全然わからなかった。最悪の目覚めだ。起きたばかりなのに全然元気が湧いてこない。
……昔はよかったのにな。一日が楽しかった。頑張れば絶対できるって、本気で思ってたもんな……。
照子の部屋の中は、失敗した研究資料で溢れ返っている。それは夢の残骸だ。照子はため息を吐くと、丸メガネの位置をきちんとした場所に戻してから、椅子から立ち上がり廊下に出る。リビングには誰も居なかった。
……あれ? いつもなら澪がいるはずなんだけどな? おかしいな? そんなことを思いながら照子はリビングを横切ってキッチンに移動する。
小さな冷蔵庫からミルクを取り出し、自分のカップに注いで飲んだ。キッチンの窓からは外の風景が見える。時刻はもう夕方だった。窓の外では世界が真っ赤に染まっている。ずいぶんと寝過ごしてしまったようだ。よく見ると窓枠の風景の中に地面の上に寝そべって、ぼんやりと空を見ているさぼりの(見慣れた)少年がいた。
照子はカップを洗って流しに置くと、一度自分の部屋に戻り、壁に掛けてあるお気に入りのマフラーを手にとってから、(それを首元に巻いて)実験用の白衣を着たまま、軽い足取りで玄関に向かう。寝起きでぼさぼさの髪の毛を手櫛で直すと、サンダルを履いて急いで玄関の外に出た。
よし、気分転換に揶揄ってやろう。
照子は子供っぽい笑顔を浮かべると、夕日の中を一人、小走りで駆けていった。
さようなら、夏。 終わり
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