325

 木戸研究所には地下施設が存在している。普段が隠されているが、非常時には(つまり今だ)非常用の通路から地下に降りることが可能なのだ。

 地下には食料室や最新の実験設備、それに医療施設や素体保存用の巨大な冷凍庫、おまけにコールドスリープ装置までしっかりと用意されている。この辺りはさすが最新の人工進化研究所と言ったところだろう。同じように最新施設であったとしても、人工知能研究所ではこうはいかない。人工進化研究所独特の設備だと言える。

 人工進化実験には生物を多用するし、その結果、副産物として医療関係の新しい技術が生まれることも珍しくはない。新薬や細胞、再生技術、冷凍睡眠。人工授精に遺伝子操作……、いろいろだ。

 ……遥がそんな人工進化の研究にのめり込んでいったのは照子の誕生がきっかけだった。照子が誕生する前の遥はずっと人工知能を研究、開発するためのプログラムばかりを書いていた。(僕がそうだ。僕は遥に命をもらった)

 その結果生まれたのが澪だった。人格を与えられて、しかもシロクジラというプログラム名の他に『澪』という個人的な名前(個体名)までもらうことができた。

 澪は遥から名前をもらって今の澪になって、それからしばらくして照子が生まれると澪は今度は『木戸』澪になった。照子も同じように(研究所の所有権が雨森博士から木戸遥に移ったことに対応して)雨森照子から『木戸』照子になった。


「私たちはみんな家族なのよ」と遥は澪と照子を見つめながら優しい声でそう言った。そんな古い記憶を思い出して、澪は一人でにっこりと画面の中で微笑んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る