313

 夏はその暗い穴をじっと見つめる。……さっき、あそこになにか見えた気がした。確かになにかがいたような気がした。さっきのはなに? 夏は首を傾げる。……おそらくは人の形をした、黒い、……小さな、(少なくとも夏よりは小さかった)子供の影のようなものが見えた気がしたのに……、今はそれはない。……気のせい? 夏は気になって考える。すると突然、頭の痛みに襲われた。

「いた!」あまりの激痛に夏は思わず声に出してそう言った。

 夏は痛みを感じた自分の頭の側頭部を手で抑えて体をぐにゃりと歪ませる。痛みの理由がわからない。その痛みは思考をしたせいで起こったものだろうか? (それとも遥の薬のせいだろうか?)

 もしその痛みが、なにかを考えたからだとしたら、どうして物事を考えただけで頭が痛むのだろう? 考えることが脳の機能のはずなのに。その痛みのせいで、思考にノイズが混ざって、なんだか頭の中がぼんやりとして、うまく物事を考えることができない。機能が矛盾している。狂っている。私は、狂っている? (いつの間にか私は狂ってしまった……、いつの間にか私の頭は、壊れてしまったのだろうか? ……さっきの無茶がいけなかったのかな?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る