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 夏は思考を中断した。遥は私を眠らせた。なら私が眠っている間に遥はなにかをしようとしたはずだ。実際になにかをしたんだ。だから警報がなっている。そのために私を眠らせた。そのストーリーは間違っていないと思う。

 遥は意味のない行動は絶対にしないからだ。私を無理やり眠らせた以上、そうしなければならない理由が遥にはあったということになる。ではそれはなんなのか? 考えたところで脳のキャパシティが遥とは雨粒と海洋ほど違う夏では、それを理解できる筈がなかった。

 でも現実としてこうして警報が鳴っているのはもちろんわかった。警報が鳴り響くようなことを遥がしたのだ。それは夏が眠っている間に起こった。(そして夏を眠らせたのが遥なら、事件の犯人も遥と言うことになる)

 この異常事態は事故でも、テロでもなくて、研究所の主人である遥自身が起こしたものだ。夏はそう結論づけた。そしてそれはすぐに確信に変わった。夏は誰よりも遥を理解していた。その物語の解釈は木戸遥という人物の行動として、まったく違和感のないものだった。

 ……できれば事故であってほしい、と夏は思った。たとえばサプライズでクリスマスケーキを作ってっくれたように夏に内緒でどこかの隠された工場の一室で、夏へのクリスマスプレゼントとして、特殊なロボットペット(鳥とか、魚とかの)でも作っていて、それが途中で爆発してしまったとか、そういうエピソードであってほしいと思った。

 でも、残念なことにそれはない。それくらいではこんなに大きな警報は鳴らないはずだ。(なにせこの研究所は核ミサイルにも耐えるのだから)

 それに遥が夏の持ち込んだ銃を所有していることも、こうなるとただの偶然とは思えなくなる。(考えすぎかもしれないけれど、運命の歯車というものは、こうしてどんどん機械仕掛けに動いていくものなのかもしれない)

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