260

 さようなら、夏。もう私たちは会えない。抱きしめることも、お互いを確かめ合うこともできない。もうこれでさようなら。ずっとずっとさようならだね。

 夏。さようなら、夏。私を愛してくれてありがとう。私、夏のこと大好きだよ。夏のすべてが好き。夏の嫌いな夏も私は好きだよ。私を見つけてくれた夏。私を愛してくれた夏。私に形をくれた夏。私を追いかけてきてくれた夏。私に会いに来てくれた夏。大好きな夏。(……夏、夏、夏)

 私は、木戸遥は、あなたに会えて本当によかった。瀬戸夏に会えて『彼女』はすっごく幸せだったよ。

 だからさ、今度は私の出番だよね。(夏はこの場所まで私に会いに来てくれることで、私への愛を証明してくれた)今度は私が、夏への愛を証明しないとね。夏、大丈夫だよ。

 夏、あなたは死なせない。絶対に私が守ってみせる。私が(銃の)引き金を引いたら、すぐに逃げて。あなたはすぐに逃げだして、全力で走って、後ろを振り向かないで、そのまま地上に逃げて。殻の外まで逃げ切って。

 この研究所での出来事は全部忘れてしまって構わない。あとは私がなんとかする。大丈夫。夏はなんの心配もする必要はない。これは夢なんだから。全部私が見ている、ただの個人的な悪夢、にすぎないんだから。だから大丈夫だよ夏。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る