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 少し話がずれちゃったね。とにかくさ、夏だけじゃないんだよ。あなたが鳥籠の中で暮らしていたとき、自分で内側から鍵をかけて、自ら檻の中に閉じこもっていたとき、同じように私も私をとても大きな(きっと夏の鳥かごよりも何倍も大きいよ)殻の中に閉じ込めていた。そうやって必死に貝みたいに世界を拒絶していたんだ。

 馬鹿みたいだよね。私たちさ、二人とも大馬鹿だよね。二人してなにをしてるんだろうね? なんだか笑っちゃうよね。みんなあんなに優しかったのにね。みんなみんな笑っていて、楽しそうで、優しい人たちばかりだったのに。どうしてだろう? (……みんなが私たちにさ、手を差し伸べてくれていたんだよね)

 なんで外が嫌いだったんだろう? なんであんなに怖かったんだろう? よくわからない。もうずっと前のことだからかな? 私さ、そんなことも思い出せなくなっちゃったよ。世界を拒絶した理由もよく思い出せない。もう全然だめだね。だめだめだよ、私はさ。

 夏は覚えているのかな? 遥はじっと夏の顔を見つめる。その額を鼻の頭を閉じた瞼を。眉と眉の間の線を。遥は見つめる。

 もし覚えているのなら、だったら私に教えて欲しい。

 ねえ、夏。なんであなたは鍵をかけたの? 遥はそっと夏の髪の毛に触れた。髪を撫でると夏の白くて小さい耳がその姿をあらわにした。(その耳には星の形をした小さなイヤリングがつけられている。それは遥が夏にプレゼントをしたものだ。遥が自分の耳につけている月の形をしたイヤリングは、夏からプレゼントしてもらったものである。二人はずっと昔に、お互いにプレゼントを交換したのだ。そのことを木戸遥はもう一度、改めて、そのときの夏の笑顔と記憶の中の風景とともに思い出した)

 夏の耳は、とても綺麗で美しい形をしている。夏の耳をこんなにじっくり観察するのは、遥にとって今日が産まれて初めてのことだった。(私が知らないことってたくさんあるんだね)

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