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遥。遥が私に会いにきてくれた。夏は遥に手を伸ばす。でも、その手は遥に届かない。遥はまだもう少しだけ、夏から離れた場所にいる。遥も空の中で夏に向かって手を伸ばしている。でも、遥の手もあともう少しのところで、夏の手にまで届かない。
……あの手を握りたい。夏は強く思う。
ずっと憧れていた手。遥の手。遥に会いたい。会って遥とお話がしたい。もっと、もっとたくさん、お話がしたい。
自由なはずの空の中で夏はもがく。その姿はお世辞にも自由とは言い難い。必死で空を飛ぼうとする夏の姿は、なんだか空の中で溺れている人のように見える。歯がゆい。うまく飛べない。どうして私はもっと本気で、空を飛ぶ練習をしてこなかったんだろう? (その機会はたくさんあった。私は夢を見続けていたのだから)こんな風に悔しい思いをすることはわかっていたはずなのに……。私のばか。ばかばかばか。(長い付き合いだから知ってはいたけれど、私はやっぱり大ばかだった)
夏は空の中で手足をばたつかせる。遥は必死で手を伸ばす。夏は空の青色を蹴り飛ばす。ちょっとだけ二人の距離が近づく。
かっこ悪くてもいい。みっともなくてもいい。そんなこと、もうどうだっていいんだ。(だってこの世界には私と遥しかいないんだから。……ううん。違う。他の人が居たっていい。でもそんなこと、もうどうだっていいんだから)
だんだんと夏と遥の距離が近づいている。(もう見た目なんてどうでもいい)夏は懸命に体を動かして、懸命に手を伸ばした。かっこ悪いけど、すごくかっこいい。そんな自分が少しだけ好きになれそうだった。
思いを振り切った夏の速度が上がった。遥との距離がどんどん近くなる。
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