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夏は自分が勝手に作り出して、自分が勝手に背負いこんだ、自分の嘘のために最近ではもう身動きが取れなくなっていた。
可愛い自分を演じることに疲れてしまっていた。遥のように美しくなりたい。強くなりたい。本当にそう思った。憧れた。遥は夏の太陽だった。
遥は今、夏の目の前にいる。黙々とチョコレートを食べている。
夏は今、遥の目の前にいる。……たくさんの言い訳をしてきた全然素直ではない、嘘に埋もれた私を見て、遥はどんな風に私のことを思っているんだろう?
……考えるのが怖い。だからそのことを遥に直接、聞くことができない。でもずっと聞いてみたかった。あなたの心。遥の本心。
二人で一緒に過ごす時間は楽しいよね?
遥だって、そう思っているよね?
それは本当のことだよね?
夏は遥の手作りのチョコレートを食べる。四角い形をしたチョコレート。でも、そのチョコレートを最後に夏の手が止まる。まだ三つしか食べていない。
ハート型と星型と四角い形のやつ。
夏は、本当はもっとたくさん遥の手作りのチョコレートを食べたかった。でもなぜか我慢してしまった。結局、それ以上、夏はチョコレートを食べなかった。
手の止まった夏を見ながら、遥は黙々とチョコレートを消費した。全部で九つ。みんな食べた。箱は空っぽになった。二人の世界は無言になった。……コーヒーは冷めてしまった。
なんで私、もっとチョコレートを食べなかったんだろう?
真っ白な無音の純粋な思考の世界の中で、夏はそんなことを考えていた。
チョコレートを食べなかった理由は夏自身にもよくわからなかった。
それは夏のもっと、もっと深いところから流れてきた、夏もよくは知らない、もう一人の瀬戸夏の感情による、判断だった。
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