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もしくは失敗したとしてもつかの間の邂逅をする。
タイムマシンでは死者が生きている時間に旅立つことで死者に直接会うことができる。その時間軸の世界では死者はまだ生者として存在しているので、そのままその世界でともに生きることもできるし、現代につれて帰ることもできるだろう。(理論的には)
「じゃあ未来旅行は? 未来には死者は存在してないでしょ?」
「それは後付け。神話で例えるなら天国みたいなところ。この世界に存在しない場所」
「天国? よくわからないけど」夏は首をひねる。
「地獄があるなら天国もあるって考えるのが人間なの。過去にいけるなら未来にもいけるだろうって考えるようにね」遥は言う。
「未来と天国が同じ物ってこと?」
「違うよ。発想の出発点に死者との邂逅があるってこと。その力のベクトルを逆さまにしただけ」
「つまり死者を蘇らせる方法を模索しているってこと?」夏の問いかけに遥はうなずく。
「ミイラとか不老不死の薬とかも同じだね。蘇りの可能性を模索している」
「つまり、死にたくない。自分の大切な人にも死んでほしくない。その願望が形になったものがタイムマシン。タイムマシンとは死者を蘇生させるための道具であって、時間軸を移動するための道具ではない」
「物語は死者と出会うために空想され、創造されるの」遥はそこで言葉を区切り、夏の目を覗き込むようにして、じっと見つめる。まるで古代の魔術師のように。まるで現代の魔法使いのように。
「物語そのものが死者を擬似的に蘇らせるための呪文のようなものなの。それは呪術であり魔法である。人は死者に出会うために物語を消費する。物語を消費することで、人は向こう側の世界に実際に旅立つことができる。……もっとも、それなりの代償を払うことには、なるんだけどね」遥は言う。
そう言って古代の魔術師てあり、現代の魔法使いは、にっこりと怪しく笑う。
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