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 ……なるほど。全体的に作り物っぽい雰囲気のせいで、すっかり忘れていた。確かにこの研究所はものすごい価値のあるものがたくさん置いてある場所だった。木戸遥の存在だけでも価値がある。

 シロクジラと呼ばれる人工知能にしてもそうだ。人工進化分野の中で、超人と定義される照子だってそうなのかもしれない。

 ほかにも私が気がついていないだけで、先ほど遥も言っていた通り、たくさんのそれらに準ずる未知の技術が実際に使われていたり、未発表の研究データがどこかに大量に眠っていたりするのだろう。実験的な施設だからこそ、こんな辺境に建設されているわけだし、遥が私に嘘をいう理由もないし、先ほどの遥の発言が本当である可能性は高い。つまりある特定の分野の人たちから見れば、この場所は言わば宝の山なのだ。

 それらを盗めるなら盗もうと考える人たちはたくさんいるだろう。もしそれが不可能ならいっそのこと破壊してしまおうとするかもしれない。そう考える過激な人物や集団があらわれても不思議じゃない。そういうことが起こることは別に珍しいことじゃない。

 ……テロは世界ではとてもありふれている。今も昔も、人はいつも変わらない。

「毒ガスとか化学兵器とかも平気なの?」

「うーん。まあ絶対ではないけど一応対策はできてる」

「兵隊とか、テロ組織に大勢で襲撃された場合は?」

「篭城かな? シェルターの中に立てこもる。その間に外部に連絡がいく。それまでじっと我慢する」

「通信が切断されたら?」情報インフラを遮断されたら、さすがに厳しいのではないか? 

「そのときも同じだね。警報が鳴って地下ごと全部隔離。あとは定期連絡がないことを外部が確認して救助にきてくれるから、それを待つ」

「なんか守ってばっかりだね。こちらから攻撃はしないの?」

「しないよ。軍事技術は私の専門外だからね。戦術とかも知らないし、戦闘訓練も受けてないし、なにより銃の撃ちかただって私は知らない」

 銃という単語が出てきて、夏は一瞬だけどきっとする。ぴたっとサンドイッチを食べる寸前だった夏の手が止まる。それから夏は何事もなかったかのように食事を続ける。夏は遥の様子を観察する。遥に変わった様子は見受けられない。

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