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夏は水面から思いっきり顔を出して、大きく息を吸い込んだ。気持ちいい。悔しいけど、とても楽しい。夏の顔は笑っている。周囲を見渡してみると、すこし遠くに誰も乗っていない白いボートが浮かんでいた。夏はそこまで泳いでいく。白いボートにはオレンジ色の光を灯したランプが一つ、船頭に取り付けられているので、その周囲はとても明るい。
そこまでたどり着いた夏はボートに体を預けて休憩する。
遥はどこにいったのかな? ボートの周辺を探してみるが遥はいない。どうやら遥はまだ地底湖の中に潜っているようだ。
事前の遥の説明によると、この地底湖に生き物は生息していないらしい。……ということは、ここは人工の湖なのだろうか? そもそもこの空洞自体、自然の物とは思えない。空間が綺麗すぎるのだ。おそらく人が作り出したものだ。人工的に、特殊な工作機械を使って、この空間を掘り出したのだろう。どことなく全体的にテーマパークのような作り物感がするのは、地上と同じで、地下も自然ではないからだと思う。
地上のドーム建設といい、相変わらず変わったことをするな。なんでこんな手間のかかることをするのだろう? ……どうせ照子のためなんだろうな。
そもそも最初から人工進化、遺伝子研究を目的としていたのかもあやしい。この研究所はいろんなところが特殊すぎる。もしかしたら、公にはできない、なにか別の秘密の研究でもしているのかもしれない。
夏はぷかぷかと水面に体を浮かべながら、ずっと真っ暗な空を見ている。……まあ、そんなことは私には関係がない。どうでもいいことだ。遥がいるから私はここにいる。遥がここからいなくなれば、私もここからいなくなる。ただそれだけのことだ。
遠くで水の音がする。夏が音の方向に目を向けると、水面から遥が顔を出していた。遥は夏の視線に気づくと、にっこりと笑って大きく手を振ってくれる。とてもかわいい仕草だ。
遥に大きくてを振りかえしてから、夏はボートに両足をつけて力をためる。そのまま思いっきりボートを蹴ると、夏は遥のいるところまで一生懸命、(暗い水の中を、元気ないるかのように)泳いでいった。
二人が水の中に消えて、世界はつかの間の静寂に包まれた。
それからしばらくすると、白いボートから少し離れたところで、とても小さな水の跳ねる音がして、暗い水面に二人の少女が顔を出した。その顔は笑っている。二人はとても幸せそうに見える。
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