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「夏は自炊はしないの?」遥はフォークでサラダを口に運んでいる。丸くて可愛らしい子供用のようなフォーク。夏のフォークもそれと同じものだ。
「しない」夏は即答する。
「どうして?」
「めんどくさい」夏はバナナを食べる。甘くてとてもおいしい。
夏は料理がまったくできない。夏は一度も自分で料理をしたことがない。それどころか掃除も洗濯もしたことがない。実家にかかってくる電話にだって出たことがない。手紙もメールも自分で開けたことがない。すべて実家にいる四人の夏専属のメイドさんたちがやってくれる。全員女性だ。それもみんな当たり前だけど夏よりも年上の人。とてもしっかりしている人たちだ。だから夏のすることはなにもない。なにもしないことが夏の役割なのだ。それでうまく経済が回っている。それは夏だけじゃない。夏のご友人たちはみんなそうだった。遥だけが特殊なのだ。世界でも有数の超お嬢様学園に迷い込んだ異物。木戸遥とはそういう人だった。
そんな木戸遥と瀬戸夏を含む学園に通う可憐で無垢なお嬢様たちとの関係は、まるで舞台のような、演劇のような、一種の幻惑的な、異国からやってきた異邦人と交流をするかのような、発見と驚きの連続だったのだけど、その中でも遥が身の回りのことを自分でやっているという事実を知ったときには、夏はとても大きなショックを受けた。
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