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どん、どん、と扉を叩く音がする。
夏はキッチンに移動する途中で、震える体で、腰が抜けるようにして、そのまま床の上にぺったりと座り込んでしまった。夏は震える体のまま、その場所から移動してなるべくドアのある方向に近づいていく。遥の寝ているベットとドアの間に自分の体を無意識のまま、移動させる。
……足が震えて、もう立っていられない。一秒でもこの場所にいたくない。地面の上を這ってでも逃げ出したい。それくらい怖い。でもそれはできない。だって、ここには遥がいるから。
夏はそっと遥を見る。遥はベットの中で無防備なまま眠っている。すーすーと静かに寝息を立てている。
遥を守らないと。この化け物から私が遥を守らないと。
夏は震えの止まらない体のまま、行動を開始する。
夏は自分の背負ってきた荷物の詰まっている白いリュックサックを、震える体を無理やりに動かして、自分の手元にたぐり寄せることに成功する。いざというときのためにベットの近くに置いておいたことが幸いした。震える手で、その中から拳銃を取り出した。銀色に光り輝く豪華な装飾の施された特注の小さな拳銃。それは夏が護身用にいつも持ち歩いてる物だ。拳銃を持つ夏の手に金属の冷たさが伝わってくる。拳銃にはしっかりと六発の弾丸が装着されている。
息がとても荒い。乱れている。ドアが開く気配はない。なぜだかはわからなかったがとてもありがたい。夏は拳銃をドアに向けて構えた。
……指が、手が、魂が震えてる。
ためらっちゃだめだ。床にぺたんと座りながら夏の体は小刻みに揺れている。
怖い。怖いよ。遥。夏はどうしても立つことができない。夏は床の上を這うようにしてドアのすぐ目の前まで近づいていく。夏は銃を撃ったことがない。だからなるべく近くにいないと、きっと当たらない。
……大丈夫。この距離なら当たる。外さない。撃てば絶対に当たる。……撃てば、絶対に。
どん、どん、と再度ドアを叩く音がする。
……鼓動が激しい。落ち着いて。ゆっくりと呼吸するんだ。深呼吸をしろ。……大丈夫。相手は生きてる。化け物だけど、幽霊じゃない。ちゃんと体があるんだ。生きているなら殺すことだってできるはずなんだ。……私にだってやれるはずなんだ。
あの子を、この部屋に入れてはいけない。
これ以上、遥に触れさせてはいけない。照子は自分の意思では動けないと遥は話していた。遥は動いている照子を知らないのだ。
夏は拳銃を構えたままじっとしている。じっと時間が過ぎるのを待つ。余計なことは考えるな。集中しろ。とても簡単なこと。ドアが開いたら撃つ。ただそれだけだ。ドアが開いた瞬間に、絶対に撃ってみせる。遥を守ってみせる。……照子を殺してみせる。
夏の体は震えている。全身に汗をかいている。心臓が強く鼓動している。その音がとても大きくて煩わしい。とても長い時間そうしていたような気がする。小刻みに震える夏の指は拳銃と一体化してしまったかのように動かない。動いてくれない。
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