23

 遥の部屋を出ると、夏のすぐ目の前にドアが一つある。そこは(最初に二人が出会った場所である)照子の部屋だ。

 左は行き止り。右は一つの(通路を二つに分けている)ドアを挟んで研究所の入り口だ。とてもシンプルな構造をしている。ドアの向こう側の区画には左の壁に一つしかドアはなかった。

 部屋は全部で三つなのかな? 

 そうだとすると、いくらなんでも地上の施設に比べて規模が小さすぎる。(ここは人工進化技術の最先端の研究所なのだ)地上や地下の空間を含めれば最大級の敷地面積を誇っているけど、この建物だけを考えるのなら、まるで遥の家のようだ。秘密基地みたいに隠蔽工作をしまくっている施設にしては小さすぎる。別の施設や秘密の部屋がこの研究所の敷地内のどこかに隠されているのかもしれない。(というか、たぶんあるのだろう)

 あれだけ広大な土地を所有しているのだから、本来なら建物がいくつあっても不思議じゃない。少なくとも資材や燃料を保管する倉庫などもあるはずだ。大きなガラスの壁。森の中を走る地下列車。大きな空洞。こんな小さな研究所のためにわざわざそれらの施設を建設したとは思えない。そもそも人工進化の目指す究極の目標である超人とはいったいなんなのか? それが夏にはよくわからない。

 人工生命の定義とはなにか? それをどのように作り出すのか? それを生み出してなにをするのか? そんな基本的な情報ですら一般にはあまり開示されていない。

 机上の空論にしか聞こえない。専門家が少ないという理由もあるが、おそらく公にオープンにできないことが情報がきっとたくさんあるのだろう。それは理解できる。人類は性善説に基づいて共同体を築いてるわけではないからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る