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なによりも科学とは人間に近づけば近づくほど、そこに排他的な圧力が高まる傾向にある。禁忌に近くなると言い換えることもできるだろう。
技術的に可能性があってもしてはいけない。求めてはならないという声が世間的に大きくなるのは事実だ。結果的に人工進化は人類の寿命を延ばし健康を保証するという素晴らしいその本来の目的とは異なる副産物としての多大な成果を上げたあとで一気に下火になった。
人類は人工進化にブレーキを踏み、人工知能にアクセルを踏んだ。時代は人工知能に移行したのだ。現在の社会では人工知能は積極的に受け入れられているが人工進化はそうではない。人工知能は生きていない。人間の形をしていても、それは人形であって人間ではない。どんなに命に似ていても、それは決して生命ではないのだ。
つまり偽物だ。偽物だとわかっているから安心して受け入れることができる。どんなに近づいても人工知能は人間にはならない。しかし人工進化はそうではない。生命になり得る研究だ。当然、世間からの反発や監視が強くなる。結果として研究者の待遇が悪くなる。だから優秀な人材は始めから人工進化分野には集まらない。人工進化が時代遅れの分野となった最大の理由はこれだろう。木戸遥クラスの天才が人工進化の研究をしていること自体が奇跡なのだ。その奇跡がどんな未来を生み出すのだろうか? それは誰にもわからない。きっと遙自身だってわかっていないはずだ。遙はここで命を生み出そうとしている。奇跡を起こそうとしている。でもそれは同時になにか恐ろしい、人類の今だ見たこともない、とてつもなく怖い怪物を生み出そうとしてるのかもしれない。
そんなことを考えると、ぶるっと一度、夏の全身が震えた。
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