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遥が学園に通う目的がわからない。表向きの理由は好奇な世間の目から身を隠すためだということになっているが納得がいかない。当時は遥が学園にいることに疑問を感じたことなどなかったけれど、改めて考えてみるとすごく違和感がある。遥は理由もなく学園に通ったりする性格の人間ではない。私にはそれがわかる。可能性としては自分で言うのもなんだけど、私たちの通っていた学園は世界でも有数の超お嬢様学校だったので、学園の中に目的の人物がいたのかもしれない。この考えは結構いい線をいっていると思う。
しかしいくら考えても特定の人物が思い浮かばなかったので、夏は勝手に自分がいるからだと思うことにした。そのほうが幸せになれるからだ。実際に夏と遥は学園で頻繁に会っていた。遥のスケジュールを考えると優先して夏に会ってくれたとしか思えない。今でもそのことはひそかな自慢だし大切な思い出だ。夏と遥はたくさんお話をした。たくさん遊んだ。悩みだって相談したんだ。遥も笑っていた。教室でも音楽室でも学園の正門までの帰り道でも、遥はずっと笑っていたんだ。すごく楽しそうに笑って、私と一緒にいてくれたんだ。……でも遥は突然学園をやめてしまった。それは本当に突然だった。
教室にも音楽室にも食堂にもどこにも遥はいなかった。最初から存在していなかったように消えてしまった。遥はやはり目的があって学園に通っていたんだ。目的を果たしたからいなくなった。遥の目的は夏ではなかったんだ。本命ではなかったということだ。一言もなしに遥がいなくなったことはとても悲しかった。私はふられたんだ。失恋したんだ。夏は久しぶりにたくさん泣いた。遥と出会ってから久しく忘れていた感情だ。夏はもともと泣き虫だった。遥のおかげで笑えたんだ。それからの一年間、夏はずっと遥を探していた。人生で一番積極的に行動した。走りまくったし強引な手段も躊躇なく使った。それでも一年くらいの時間がかかった。それでようやく見つけ出した。ここまでたどり着いたんだ。荷物を詰め込んだリュックサックを背負って、世界の果てまで冬休みを利用して会いに来たんだ。絶対にあやまらせてみせる。……もう一度、振り向かせてやる。
(夏の日記の記録はここで終わっている)
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