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 最初に照子の本当の価値に気がついたのが木戸遥だった。遥は偶然生まれた命である照子が人工進化が目指す超人そのものである可能性に気がついたのだ。彼女は当時七歳。既に名前が知られていた彼女は人工知能研究の一環として人工進化研究所に招かれて実験をした。当然のように実験を成功させ照子を誕生させた。人工進化研究所は法的にかなりグレーな実験、危険な実験をすることが多いため大抵は世間から隔離された場所に建設されることが多い。照子の生まれた雨森研究所もそうだ。この場所は本来民間人の立ち入りが禁止されている。夏はここにくる許可を得るのに実家の力をかなり使った。木戸遥は照子の価値に気がつくと照子に病的なほど執着するようになる。この雨森研究所の新しい所有者になり正式に照子を手に入れたのだ。遥がどんな手段を使ったのか興味はあったが調べてもその方法は見つからなかった。遥は自分の生み出した奇跡と一緒に洞窟にこもった生活を始める。初期のころは何人か助手をやとっていた形跡がある。かなりの資金を使って研究所全体を新しく建造し直している。どこかの企業がスポンサーになったのだろう。もしかしたら国かも知れない。このころから彼女は頻繁に表舞台に登場して様々な企業や団体とコンタクトをとっている。夏と遥が出会ったのもこのころだ。二人が出会ったとき、遥は七歳。夏は八歳だった。当時の遥は今の遥からは考えられないくらいに社交的で行動力に溢れている。天才でも一人では生きていけないということだ。この時期にかなりのお金と人脈を彼女は手に入れている。夏の実家である瀬戸家とも遥は強いつながりを持っている。


 追記


 調べられる範囲で可能な限り遥のスケジュールを遡って検索した。そのほとんどは黒く塗りつぶされていたけれど、それでも大体の遥の動きの癖のようなものはつかむことができた。遥のスケジュールはとても細かく設定されていて無駄がまったくと言っていいほどなかった。木戸遥の特徴として無駄を嫌う傾向がある。効率重視。より遠くに飛ぶために削れるものはすべて削り落として軽量化する。それが天才木戸遥の戦略だった。遥の行動には必ず目的があり、意志がある。だから動きがわかりやすい。でもそんな遥の経歴の中で一つだけよくわからない行動がある。それは学園に通い始めたことだ。

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