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広大な大地の上を夏は一人で歩き続けている。
近くには緑色の草原、遠くには深緑色の森が見える。もっと遠くには白いシンプルな形をした三本羽の風車が何本か連なって立っているのが見えた。
(……反面、生き物の姿はどこにも見えない)
夏はそんな風景を物珍しそうに時折、眺めながら、大地の上を歩いている。
夏は紺色の学園の制服の上に、少し大きめの青色のジャージを上着だけ着ている。細い首には雪のように白いマフラーを巻いて、耳には白いヘッドフォンをつけている。(よく猫っぽいって言われる、大きな猫目とふと眉のお人形のように可愛らしい顔には化粧はしてない)
ジャージのポケットから伸びたカセットテープレコーダーのコードが、その耳に装着されているヘッドフォンまで伸びている。なので、せっかくの夏の形の良い小ぶりで綺麗な耳は、今はそのヘッドホンの下に隠れてしまっている。
右手には白いスポーツタイプの腕時計をつけている。その足にはいくら歩いても疲れないと評判のとても高価で高性能な真っ白なスニーカーを履いて、背中には荷物がたくさん詰まった白いリュックサックを背負っている。
(夏は小柄だけど、走っているので体力には自信があった。ひきしまっている足やおなかや体の形にも自信がある)
夏はお気に入りの音楽を聞きながら笑顔で軽快に足を進めている。その途中で度々腕時計を見て画面に表示された青色のデジタル数字で時刻を確認する。
それからしばらくして、夏は地図に赤ペンで手書きのばつマークがつけられている目的地までなんのトラブルもなく到着した。ちょっとだけどきどきする。すると、そこは小高い丘になっていた。夏はなんの迷いもなく、その丘を上に向かって足早に登っていく。
いろんなシチュエーションを空想していたのだけど、実際に目的地に広がっていたその光景を見て、しばらくの間、夏はその場から動くことができなくなってしまった。
目的地にはなにもなかったのだ。
夏は慌てて地図を確認するが場所はあっている。……なにもない。自然のままの小高い丘があるだけだ。……いったい何時間歩いたと思ってるんだ。全身の力が抜ける。夏は思わずその場にぺたんと座り込んでしまった。
まいったな、どうしよう?
夏は空を見上げる。空は相変わらず、どんよりと曇った暗い灰色をしている。
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