恵の雨は世界を切り裂く

@ricos

第1話

これはザイと呼ばれる力が巡る世界のお話。


ザイ 恩恵、奇跡の力、命の源とも称されたその力はその世界に脈々と流れていた。

ザイは土地、国、生き物、そして人にも恵みをもたらし、文明や技術の発展のきっかけにもなった。そう、ザイと人々はとても切り離しがたい関係となっている。

そんな中、その世界のあり方を左右する出来事が起こった。


そう、ここで。



ここはシナ国とガリア帝国との国境沿いの山脈にある雪原。

ここの雪は年中通して完全に溶けることはない。しかし春になれば少し地面が見え、小さな植物が生えてくる。この雪原はシナ国とガリア帝国を分ける国境となっていた。

シナ国とガリア帝国には共通の種族が起源だ。現在のガリア帝国がある土地はザイがとても豊かで、作物は豊富に育ち、ザイが豊富に宿った鉱石や、ザイが結晶化した宝石(魔晶石)が豊富にとれる地域であった。そこへ開拓にきた移民がきっかけとなり、ザイと鉱石、魔晶石を巡り、人々は争いを起こした。その争いに負け、逃れた人々が現在のシナ国の人々である。シナ国はガリア帝国より北にあるため、寒く作物も育ちにくい痩せた土地であった。シナの人々は知恵を絞り、ザイを研究し、貧しい土地でも生きながらえる術を身につけるしかなかった。

一方、ガリアの人々は豊富な資源を利用し、魔法工学技術を発展させとても豊かに暮らしていた。

シナとガリアは時々資源を巡り戦争を起こしていた。きっかけとなるのが、ザイの流れの変化である。ザイの流れが変わると鉱石、魔晶石がとれる量が少なくなってしまうか、豊富にとれる場所が変わってしまう。それがきっかけで、よくガリアからシナに侵略していた。しかし現在、シナはザイをよく研究し、ガリアに抵抗する術を身につけていたため、勝てないとふんだガリア帝国はシナへの侵略をやめ、現在は和平が結ばれている。

そして今、この2つの国に冬が訪れていた。国境の雪原は一面真っ白である。一度荒れると中々晴れないこの雪原だが、珍しく今日は晴れている。

がガガガ

雪原を慌ただしい人工的な音が引き裂いている。それは小型の飛空艇であった。



飛空艇が進行を止めた。すると飛空艇のトビラが開き、布に包まれた大きな荷物を持った男が現れた。

「捨てろ、ここでいい。」

そう言ったのは操縦士だった。


男は黙って頷きそのまま荷物を捨てた。男の捨てた荷物は重力のまま雪原へ落下して行った。


「あれは優秀だったが。もう無理だな。」と操縦士が言った。


「力を使い果たし、機能していない。」

荷物を捨てた男が答えた。その男は荷物が落下していく様をずっと見ていた。すると操縦士があきれた様子で声をかけた。


「何ずっと見ている。いずれ果てるものを見ても何も得られん。」


「あぁ…そうだな。」

荷物を捨てた男は操縦士に促されてトビラを閉めた。トビラを閉めたことを確認した操縦士はガリア帝国へ去っていった。


男たちの落とした荷物が雪原へ落下した。しかし、落下の瞬間わずかに減速したようだった。若干の落下の衝撃で荷物を包んでいた布が解け、そこから人の顔が現れた。

少年だった。

少年は微かだ息がある。冷たい外気で意識を取り戻したのか、少し表情が動いた。しかしその顔に生気はほとんどない。


空……



そのまま少年は動かなくなってしまった。



その後、数十秒たった頃の出来事だったろうか。


倒れる少年を囲むように人が突然現れた。20

代半ばの青年と10代後半の少女だった。少女は動かなくなった少年を覗き込んだ。


「このひと、だけかな?」



青年はあたりに気配を研ぎ澄ませた。


「あぁ、そうだな。あと人の気配はない…」



「にしても美人だな、こいつ男なのに。ちぇー、女じゃないのが残念だ。」

「お兄ちゃん、正直だね。」


一瞬間があった。


「でも私もすっごく綺麗だと思う!」

少女が笑った。

「だよなー。」

青年と少女は笑いあった。しかし、すぐ 切り替えて青年は気を失っている少年を見た。

「で、こいつは電池切れだ、このままだともうすぐ死ぬ。レイア、補充してくれ。」


しかしレイアは首を横に振った。レイアは少し怯えているようだった。

「うん、そうしたいんだけど…なんかやな予感するの、この人。お兄ちゃんちょっと、見てくれない?」


「へぇ…」




青年は妹を少し驚いたような表情で見て、それから少年を見つめ直した。青年はうんと首を傾げ、かがみ込み、心臓のあたりに手を当てた。

「レイアの気のせいじゃ…」


すると顔付きが急に変わり、少年の首元を確認した。少年の首に黒いアザのようなものがあった。


「…なかった、レイアビンゴ。これ呪いっぽい。」


「呪い…?」


少女はおそるおそる少年の首元を覗き込んだ。すると少女はすぐに小さな悲鳴をあげ顔を離した。


「大丈夫か、レイア。」


兄はヘラヘラ笑っていた。


「私。それすごく嫌い。いや、怖い、無理!」


「察しがいいねぇ、我が妹よ。ザイにもいろんなタイプがあるからな、だがこれは今まで見てきた中でもタチが悪い。」


青年はにんまりと笑った。

「ま、一種の呪いみたいなもんだな。」


青年はとても呑気で、ぐしゃぐしゃと妹の頭を撫でた。そして、次に倒れた少年の頭を撫で、声をかけた。

「今まで、よく耐えたな。今日からお前は自由だ。」

青年はニカッと笑った。


そして青年は研磨された透明な宝石を、ポケットから取り出し、少年の首元のアザにあてた。

するとアザが水晶に吸収され、跡形もなくなった。


「これでもういいはずだが。レイアまだ何か感じるか?」


レイアはじっと何かを捉えるように少年を見た。

「ううん、大丈夫。もうその人から何も感じない。」

レイアは深呼吸をし、パンパンッと自分の、顔を叩いた。

そしてレイアは少年のそばに座り込み、少年の心臓に手を当てた。すると少年の体が優しい光に包まれ、少年の顔に生気が戻り、正常な呼吸を始めた。

「よし、完了だな。レイア、よくやった!さて、こいつを運ぶんで、さっさとずらかるぞ。」

レイアはコクリと頷き、 青年は少年を抱えた。レイアはそれを確認し、ポケットから白い羽根を取り出した。


「目眩しないな、レイア。」

青年はレイアの顔をじっと見た。


すると少女は元気よく頷いた。

「大丈夫、帰れるよ。いっぱい家帰ったらご飯食べる。」


「ま、消耗はするか。じゃ、今日ステーキだな。」

「本当?!やったぁ、帰ろう!」


レイアはポケットから急いで赤い宝石が根本に着いた白い羽根を取り出した。その羽根を天高く掲げ、レイアは元気よく声を出した。


「家まで、お願い!」

すると三人は風に包まれ、雪原から姿を、消した。その雪原には誰の姿もなくなった。












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