クリスマス”繁忙期”に静かな約束を。
仁司じん
第一章:非ロマンチックな出逢い
電車のマナーは守りましょう!(三太の場合part1)
あぁ~、寒い。
とにかく寒い。
出てくる時にマフラーも持ってくれば良かったな、と三太は後悔する。
荷物は多すぎると面接のときに邪魔になるからなるべく抑えた方がいいって、”就活対策BOOK”に書いてあるから置いてきたけど、11月にしてこの寒さは厳しい。
動物達は眠ってこの極寒を乗り過ごすわけだが、巣のなかで気づかないうちに野垂れだりしてしまわないものだろうか。食物連鎖の頂点に立つ人間(僕)は自販機で買ったホットコーヒーを飲みながらも凍えて死にそうです。
電車を待つ間に手元の缶は、熱をすべて失ってキンキンのコールドドリンクになってしまった。これを飲み続けたいとは思わないけど、何か口にしていないと落ち着かないので一口含む。購入してからゆうに10分は過ぎていた。
東京だったらここまで待たされないのかな、と三太は思う。都会は2.3分おきに電車が来るらしいと噂には聞いている。そんなに短間隔で電車が駅に集まったら絶対いつか事故起きるだろ、と無責任に感想を述べてその会話は打ち切った。
都会はそうらしい。事実を僕は知らない。そして、それを知らないまま人生を終えるなんて、勿体ないではないか。だから僕は今日、東京に本社のある会社の支社に出向いて、東京で働く権利を勝ち取りに行く。
就職期間中は他の学生皆が敵に見える。あいつよりは、とお互いが優劣をつけ始めるのを肌で感じ始める。それをここまで耐え抜いたのは、らしいをだったに変えたいがためである。
内側から沸々と浮き上がる情熱は身体を少しだけ暑くさせた(ような気がした)。さて、就活BOOKに目を通そうか。
間合いが悪く、電車の到着音がホームに響き渡る。
通勤通学の時間とは少しずれているため、ホームには僕以外に二人の人間しかいない。あとは迷い込んだ野良猫一匹。
ドアが気だるそうに開いて暖房の熱を放出する。その温かさに感謝しながら座れる席を探して腰を下ろす。
就活BOOKはカバンに戻してしまった。手持無沙汰である。
車内の中刷り広告に目を通す。最近話題になっている、ロボットの就業実用化計画と女優のゴシップニュースをしっかり頭にインプットして静かに目を閉じる。
そしてそこで、僕の隣のまた隣に座る女性の挙動が気になった。
田舎の電車では女性が化粧をしている光景を見かけることは少ない。
きっと都会からきたキャリアウーマンだ。僕が来ているスーツの5倍は値の張りそうな恰好で、顔に化粧を施しているのである。
僕は不意に先日のグループディスカッションの内容を思い出した。
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