第2話 可愛い店員

遅めの昼飯、早めの晩飯の前に、レンタルショップへ寄った。


カウンターに返却物を無造作に放り、店員の了承を待った。


「これ、私も観ました」


店員の女の子がカウンターでニコニコしている。


此処は常連だが初めて見る顔だ、やや小柄で愛くるしい。


「先生は、SFが好きなのですか?」


ん・・と彼女を二度見した。


「うちの学生?」


多少見覚えのあるような気がしないでもない。


「先生の授業を何度か受けたことがあります」


「そう、・・・ここは?」


「はい、バイトです」


めったな物を借りてなくて良かったと安堵した。


准教授といえどまだ若い、独身に戻った今、たまには不道徳的な作品を借りることもある。


「此処はもう駄目だ」

楽しみを一つ失った気がした。



飯を済ませた後、しばらく寂れた商店街をブラブラと歩き、古本屋に立ち寄った。

古本屋通いは、人文学者の職業的習慣であろう。


これとはなしに読み漁り、ふと手が止まった。


「宇宙から来た獣人」・・・懐かしい・・・、瀬下が子供の頃観た映画である。


人気があったが、いつの間にか消えてしまい、その後話題にも上らない忘れ去れた不思議な作品である。


友好的に接してきた宇宙人が、人類を絶滅させるという内容だったと記憶していた。


瀬下は、ノスタルジーだけではなく、名作とされるべき作品が社会から忘れ去られていることが気になった。



急いでレンタルショップに戻った。


あの愛想のいい店員は、まだいた。

カウンターの向こうから手を振っている。


他の店員を無視し、手招きに応じた。

「宇宙から来た獣人あるかな、古い映画なのだけど?」


彼女は、何故かニコニコと嬉しそうだ。


「待って下さい、今、調べます」


そういって傍らのパソコンを叩いた。

真剣な表情の彼女を、期待を込めて見詰めた。


意外にかわいい、いや、目立たないけど美人なのかもしれない、幼く見えたが、横顔は綺麗な女性だ。


さり気無くネームプレートに目を遣った。

高橋沙希タカハシサキ・・・か」


「宇宙から来た獣人、ですよね、これ廃盤になっています」


「ここには?」


「ありません、・・・処分リストにも無いです」


「そう・・・、残念だ・・・」


「私、探します。他の店舗にまだあるかもしれません。県外まで探しますか?」


「そうだね、もしあったら連絡くれるかな」


「はい、会員登録時の変更は有りますか?」


「いや、無い、それで大丈夫だ」


「わかりました。連絡しますね」


彼女は、更にも増して嬉しそうだった。

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