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 バーさんが消えて、カチカチと時計の音だけが響く。ソファからは外の様子がすりガラスで見える。まだ通行人は少ない。

「待たせたね」

 しばらくするとバーさんがカチャカチャと茶器の音をさせて戻ってきた。手にしていた盆には透明なカップとティーポットが乗っている。

「いいもんってそれ?」

 耐熱ガラスのいい茶器、なのだろうか?

「んなわけあるかい、こんなのはただの茶器だよ」

 じゃないらしい。

「いいもんってのはこっちさ」

 バーさんが目の前に透明なカップとソーサーを置いた。ティーポットには熱湯が入っているようだ。その横には小皿に盛られた、

「花?」

「そうだ。これをね、こうするんだ」

 バーさんはおもむろに花をカップに入れると、そこに熱湯を注いだ。

「お、おぉ」

 確かに透明のただの熱湯だったのに、カップの花に触れた瞬間から、みるみると青く染まって行く。

「何これすげぇ」

「そうだろう、そうだろう」

 クリアで美しい、まるで宝石を溶かしたかのような飲み物が出来上がった。驚きと感動でカップとバーさんを何度も見ると、すごいドヤ顔をされた。

「なんでこんなに青くなるの」

「そーゆー種類のハーブだから」

 ざっくりー!

「んでな、面白いのはここからだ」

「え?」

 そう言ってバーさんが取り出したのは黄色いシロップ。

「レモンを刻んだシロップだ。これをここに入れる」

「・・・お、おぉぉぉぉお、すげぇ」

 真っ青だったハーブティーが一気に鮮やかなピンクへ変わった。

「何これ何で色が変わるの」

「そーゆーハーブだから」

「・・・これなんて言うハーブ?」

「マロウだよ。どうだい? お前さんとこでこれ、使ってみないかい?」

「え、安くしてくれんの?」

 なんてまぁ商売上手な事。さっき出合ったことも伏線だったらこのバーさんすげぇな。

 なんて言いつつも、この魅力的なハーブに一目見た瞬間から俺は心を奪われていた。

「とりあえず百グラム」

 断じてバーさんに引っかかったんじゃない。

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