タネのあるマジック

カゲトモ

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「ちょいとそこの格好いいおにーさん」

 まさかそれが自分に掛けられている言葉だなんて誰が思うだろう。もし思っていたのならそいつはナルシストだ。

「あ、違った。そこの目つきの悪いむっつりおにーさん」

 いやいや何言ってんだ。このバーさん。ついにボケが回ってきたか。

「おいおーい、お前さんだよー。そこのむっつりすけべのスカイさーん」

「おいいいい、俺かよっ。大体むっつりじゃねーし、おにーさんしか合ってねーだろ」

「いやいや、目つきが悪いも合ってんだろ。鏡見たことないのかい?」

「毎日見てるわ」

 三白眼なの気にしてるんだっつの。

「なに、どーしたの」

 こんな朝っぱらからこんな店先に立って。バーさんが客引きでもするのか。

「いや、暇だったんでな」

「暇なのかよ」

「こんな寂れた茶葉屋が流行っているわけないだろ」

「おい、にぃさんに聞こえるぞ」

「本当のこった」


 土曜日の朝。通勤通学の人たちが去った後の商店街は、まだ静寂に包まれている。店は開いていても、賑やかになるのはもう少し先だ。

 ちょっとした用で早めに出勤していた俺はそんな時に茶葉専門店のババァ、もとい大女将に捕まった。今日はいつも行っている病院が休みだとか何だとかで、朝から暇なのだろう。

 この“桐嶋堂茶舗”は茶葉専門店で、この辺では一番多く色々な茶葉を扱っている店だ。

 ちなみにいつもここで茶葉を卸してもらっている。だから俺はここの取引相手でもあるわけで、良く知った仲でもあるってわけ。バーさんとはいつもこんな感じだ。現当主の親父さん(バーさんの息子でにぃさんって呼んでる)は顔は厳ついが優しい人だ。いつもおまけしてくれるし。

「ちょっとおいで。どうせ今暇だろ」

「バーさんと一緒にしないでくれよ」

「なんだい、まだ朝じゃないか。あんたは夜に仕事してんだろ。いいから入んな。そこは寒いから」

 いや、今まで外にいたのバーさんだから、とは言わずに店に入ることにした。そんなに急ぎの用事じゃないし。バーさんに付き合うことくらいなんてことない。それに丁度手も冷えていたし。

「お邪魔します」

「・・・いらっしゃい」

 ぺこり、と頭を下げて親父さんに挨拶する。バーさんはたったと歩いてソファ席まで案内してくれた。

「実はね、良いもんが手に入ったもんでな、お前さんに飲ませてやろうと思ったんだ」

「へぇ、良いもんって何?」

 素直に訊くとバーさんはニタァと笑って奇声をあげた。

「ひっひっひっ」

 いや、笑い声か。

「いいからちょっと待ってな」

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