ほしのビスケット
日高 森
てのひらのほし
よるがあんなにまっくらになるなんて、はじめてだったよ。ぜんぶのいえのぜんぶのでんきがきえたから、それはあたりまえだってママもせんせいもいってた。
おひるねからおきたら、すごくじめんがぐらぐらってして、バスにのってたとおもった。けど、それってじしんっていうことだった。じめんとそらがひっくりかえるのかなって、あたしにかぶさってた、みなよせんせいがいってた。
「そしたら、てんじょうにおちちゃう! でんとうにぶつかっちゃう!」
だから、ななこはおしりをおさえてた。なんかくらいけど、みなよせんせいのしろいはがみえて、ちょっとくすってした。しろいはがうごいて、やさしいこえがしたよ。
「だいじょうぶ。ななこちゃんは、せんせいがまもってるから」
かぶさってたのはあそんでるんじゃないんだって、ふしぎ。ななこは、じゃあへいきだよって、さっきならったおうたをうたった。ビスケットのおうた。だってぐらぐらがあふれて、ほいくえんがおふねみたいだったんだ。ポケットもがさがさ。おやつのじかんにいただいた、がいこくのおみやげのビスケットががさがさいってた。おほしさまのかたちだったから、ママたちにもみせたくてポケットにかくしてたんだよ。
おうたもビスケットもゆれて、なんかへんだったけど、せんせいもみけるくんたちもうたってたから、ななこはもっとうたったの。みけるくんはママがイタリアのひとで、すっごいいけめんなんだ。
いっかいうたいおわったら、ぐらぐらしなくなった。ちょっとあしをだしたらまたぐらぐらした。ぐらぐらがいっぱいで、マンガのじにしたら、「ぐらぐら」でうまりそう。うみのうえにいるみたいって、みけるくんがいってた。おかしかった。
おうたをにかいくらいうたったら、やっとすこしぐらぐらじゃなくなった。
みなよせんせいがどいて、ななこはおおきないきをした。
「くるしかった? ごめんね」
せんせいがだっこしてくれて、いいにおいがする。ゆめのなかじゃないんだっておもった。
えんちょうせんせいやほかのくみのせんせいもはしってきて、ろうかははしっちゃいけないのにって、ちょっといいたかった。けど、みんなこわいかおで、ななこはおくちとじてた。
ママたちがおむかえにくるまでここにいなさいって、せんせいたちはいった。
「ここはたかだいだから、ぜったいここにみんなをいさせて。ひなんはやめて」
みなよせんせいが、とってもこわいかおでえんちょうせんせいにいってて、せんせいはこんなママよりこわいかおするんだっておもった。でもみなよせんせいがこわいのは、こわくないってなんだかわかる。ななこは、てをぎゅってしてくるみなよせんせいのかおをみてみた。
「せんせい、ひなんって、にげること?」
「そう。このまえくんれんしたけど、いまはあのときとちがうの。ほんもの。そしてけいほうがでてる」
とおくで、なにかさわいでる。それはどうぶつがさわいでるこえじゃなく、サイレンだってみなよせんせいがいう。
「つなみがくるの。とてもおおきな、なみ、みずのかべ。だからひくいとこには、いっちゃいけない」
みなよせんせいが、おくちをいちっていうじみたいにぎゅっとして、ななこをなでててくれた。ろうかのまどからとおくをみて、じぶんをぎゅってしてたけど。
またぐらってして、なんかいもぐらってして、こわいけどみなよせんせいがわらってくれた。へいきだって。らんぼうなせんたろうがさわぐから、まけないっておもった。ビスケットのおうたとおなじに、ポケットもがさがさいってた。
こんどはふつうにすわっておうたをうたったら、ママたちはころんだみたいになって、ドアからはいってきた。ぎゅぎゅうってされて、いたかったけどあったかい。ママからぽとぽとみずがおちたけど、ななこはがまんしたよ。
「ここでこんやはおねんねよ。みんなで」
「おとまり? ごよういしてないよお」
「いいの。みんなそうなの」
みけるくんのパパも、みんなのも、おんなじだっていってる。さむいからみんなでかたまってって、せんせいもママもいってた。みけるくんがちかくて、なかよしのゆりなちゃんもそばだからよかった。
でんとうがつかなくって、まっくらになってから、パパがきた。パパはママよりずぅっとびちゃびちゃだったけど、もうふでまるまってブルブル。けど、ようかいだぞぉってななこにわらってる。
なんかおかしくなってたら、またちっちゃくどうぶつがないた。でもそれ、どうぶつじゃじゃなくって、ぱぱたちのおなかのなきごえなんだって。すっごいなきごえだから、ななこ、パパのおなかをなでてあげたかったけど、とどかなかった。
「どしたら、なかなくなる?」
「エサをあげないと、ムリ」
かおがあかいパパたちが、いたそうにわらった。ななこ、ポケットのがさがさをたたいてみた。おほしさまのかたちをしたビスケット、あのおうたみたいに、ポケットにいれてたたいたら、ふたつになるかなっておもったの。
いっぱいたたいておててがいたくなったから、だしてみた。ビスケットはふえてなくて、おほしさまのつのがとれて、ぐじゃぐじゃだった。でもパパのおなかがなくから、あげた。パパたちはおどろいて、でもおおきなおててでおしかえした。
「ふやせなくって、ゴメンね。でもたべて」
「ふしぎなビスケットじゃないから、ふえないんだよ。でも、ありがとう。ななこがたべなさい」
「ななこ、さっきおやついただいたんだ」
けど、ななこのおなかもきゅうきゅう。ビスケットははんぶんこして、ななことママとたべた。つのののこりはママがパパにあげた。
そのあいだもずっとずっと、かいじゅうみたいなサイレンがないてた。まっくらになって、おといれいきたくて、ママといっしょにいった。まっくらでこわかったけど、がまんした。
「なんでこんなにまっくらなのかな」
「でんきがね、ぜんぶとまったの。さっきのおおじしんのせいで、でんきをとおすせんが、きれちゃったみたい」
おおじしんっていうかいじゅうは、でんきもガスもトラックもとめて、しばらくはこんなのだって、まっくらなこえでママはいってる。
まっくら。ろうかも、ママもおてても、まっくら。けどね、おにわのがわのろうかをとおったら、ちょっとあかるかった。ろうかのとこでみなよせんせいが、おそとにでてた。せんせいはおそらをみてたって。
「でんきがぜんぶきえてるから、ほんとうにおそらがきれい」
おほしさまがおそらいっぱいにふえてた。ぶるぶるひかってて、きれいだった。
「おそらをたたいたら、おほしさま、ふえたんだ!」
おほしさま、ふしぎなビスケットになったんだって、ななこおおごえでいった。だからみんなのえいようになるよって、おおごえで。おほしさまは、もっとぶるぶるひかって、「そうだよ」っていってるみたいだって。
ママがしゃがんじゃったから、せんせいがはしってきた。せんせいはないちゃったママのせなかをぽんぽん。ななこのあたまはなでなでしてくれた。
「ななこちゃんのいうとおり、おほしさま、ふえたんだ。いっぱいのひとがおほしさまになって、ここにいるみんなに、がんばれって、えいようをくれてるんだね」
「ひとがおほしさまのビスケットに、なっちゃった」
ななこはよくわかんなくていたら、ママがかおをふいていってた。
「おばあちゃんもね、おほしさまになったって、さっきれんらくがあった。おばあちゃん、とってもげんきなひとだったから、げんきなビスケットになって、ほら!」
ママがゆびでさしたとこのおそらにに、おっきなおっきなおほしさまが、ぶるぶるひかってた。なんだかないちゃいそうになった。ないてもいいって、せんせいがいってた。
あのよる、おほしさまのビスケットはいっぱいいっぱいふえた。おそらぜんぶがぶるぶる、ひかってた。いまもぶるぶる、おそらのむこうで、げんきにひかってるんだよ。
おわり
ほしのビスケット 日高 森 @miyamoritenne
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