ミアタリ【捜査共助課見当たり捜査班】
にのい・しち
ドラマのオープニング的な
都心部に位置する、某駅にて。
駅前は、まるで大きな口のように開き、通勤ラッシュの混雑を飲み込んで行く。
その人の流れは、家畜の大移動を思わせた。
駅周辺の花壇の
しかし、ただ流れゆく人の流れは、メトロノームのような一定のリズムを作り、来た当初に比べ、彼の集中力を削いで行く。
彼は思わずあくびをした。
マズいな。
前日、捜査資料を遅くまで確認していたシワ寄せが、今になって来始めた。
その上から深緑のジャケットを着込んでいた。
目立つわけでもない、地味な服装た。
目をこすると、隣から厳しい声が飛ぶ。
「退屈なら帰れ」
その言葉に、彼は背筋を伸ばして、自身を律する。
「すみません」
彼の隣には、前髪が後退し、おでこの面積が広い白髪の男性が、同じように、花壇の縁に腰を据えていた。
老体の男は、膝まで丈が伸びる、黒いコートを来ており、茶色いのズボンという服装で、こちらも、目立たない地味な格好だ。
阿南警部補は、眉間に深くシワを刻むと、目を人の流れから離すことなく、文句を付ける。
「たく、ガキじゃあるまいし」
「ガキって……私、もう40で、妻も子供もいるんですけど」
「この分野においては、来たばかりの新米なんだよ。ガキ同然だ。ひよっこだ。あまちゃんだ」
「朝ドラかよ……」
小山内巡査部長は、つい小言を漏らす。
阿南警部補は耳を突き出し聞く。
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
巡査部長は、咳払いで誤魔化すと、気を取り直す。
阿南警部補は、後輩刑事に注意する。
「いいか? 集中しろ。お前がまばたきした分だけ、
そのつもりで見とけ。
それが【見あたり】の極意だ」
「はい」
巡査部長は静かに返事をした。
【見当たり】
その歴史は1978年、大阪府警を起源とし、各都道府県へ広がり、犯罪捜査に貢献してきた。
この覆面捜査方法は、2000年以降に入ると、警視庁にも専門部署が設けられるようになり、その重要性が認められる。
その捜査方法とは、指名手配となった犯人の、当時の顔写真を記憶し、読み取った特徴と、街を通り過ぎる人々と照らし合わせるというものだ。
時間も手間もかかる。
勿論、何年も、何十年も要する為、犯人は老いて、顔付きが変わったり、整形手術で顔自体を変えている場合がある。
難しい捜査だ。
しかし、どんなに容姿が変わろうと、人の顔は、目や鼻、耳の形など、そうそう変わることのない部分がある。
見あたり専門の捜査員は、そういった特徴を見逃さず、例え何十年時間が立とうと、犯罪者を見つけ出し追い詰める。
近年、顔認証システムや多方面に特化した人工知能の登場により、見あたり捜査の存在は危ぶまれるものの、培って来た技術や知恵、功績は高い定評があり、今だ、警察機構に置いて重宝されている。
そして、見あたり専門の刑事が減りつつある現在。
先人達は、後継者の育成に力を注いでいた。
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