第2話 テストがあると、しんだ人が多発する

 信号待ちをしていると、後ろから来て、キュッと隣に並んだ自転車の漕ぎ主がボソッと言った。

「ゆっきー、しんだ。」

 と、朝から暗い顔で、勘違いするような事を言ってくる。これは、僕の友達、古田 晴こだ はる。フルネームが言いやすいことで有名だ。そして、ゆっきーとは、僕こと、雪吉 巡ゆきよし めぐるのことだ。

「おはよ。僕は、死んでないけどね。」

「……あのね?まず、大体ね、お前が早起きして、地理の範囲が全部暗記できると思う事自体が間違いなんだわ。」

 ”~だわ”というのは、この地方の方言だ。

 そして、昨日彼は、LINEで、早起きをすると言ってきた。僕の予想は、案の定、当たっていたようだ。


「俺は、無実だ。」

 ……こいつのことだ。

 どうせ、スマホがマナーモードだったとか言い張るんだろう。


「スマホがサイレントモードだった。」

 ……余計にダメじゃねえかよ!!

 それ、全く音ならないやつだから!

 バイブもならないやつだから!

「まぁ、後の祭りだ。

 俺は、ちゃんとアラームをセットする仕事はした。とにかく、俺のせいじゃねえ(笑)

 それはそうと、高校2年生になってからというものの、中だるみしてるひまもねえよなぁ……」

 そう、僕らは、高校2年生。ましては、進学校である。気の緩む暇もない。

「本当にね。2年生になってから、テストがあると、しんだ人が多発するね。お前みたいな(笑)」

「まあな。皆しにん仲間だぜ。」

「……フッ」

 と、軽く笑った。正直、仲間にされたくないと、思ったが、

 僕も、同類だ。

 きっと、彼らと同じ者同士。


 沼に溺れた、哀れな生き物。


 いや、僕の方がひどい。

 頑張って、もがきもせずに、沼の中で、

 ぬくぬくと過ごしているのだから。


 青に変わった信号を見てから、

 僕は、皆に遅れて重いペダルを漕ぎ出した。

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