9-5

 七日後、マリアノフのリブス通り。聖母フラウエン教会で、長老派の司祭ルーベン・ルメンニゲの葬儀が営まれた。

 冬の晴れた日だった。

 ミッドガルド最大派閥だった長老派の指導者だけあり、葬儀には多数の市民と国賓級の大物が集まった。

「久しぶりだな」

 リブス通りに集まった市民の後ろでエリオットが言った。

「いいもんつけてるな」とアンナ。

 エリオットの左手には義手がついている。

「動くんだ」

 左手の指先をゆっくり開いた。

「便利だな」

「俺の魔力と連動してる。訓練すればもっと早く動かせるようになるらしい」

「けど訓練は全然してない」とニーナが口を挟んだ。「寝てばっか」

 エリオットの隣に立って溜め息を吐く。

「せっかくニーナがいるんだから、どこかに連れてってやれ」

 アンナが言った。

「そんな感じじゃない」とエリオット。

「じゃあたしたちどんな感じなの?」

 ニーナが言った。「都合のいい関係?」

「これからの関係だから。そう急がないでくれ。じっくりいこう」

 エリオットは言ってから話題を変える。「それにしてもすごい人だかりだよな。棺がどこにあるのかも見えない」

「こんな人が来るなんてな。あのルーベンに」とアンナ。

「あれ、ロドマンじゃないのか?」

 群集の頭の向こう、往来を行く葬列の中にロドマンの顔があった。黒い肩衣が見える。

「いつもと違う神妙な面持ちって感じだな」

 アンナが言う。「みんなが祈ってる」

「おかしいよな」

「お前は祈らないのか?」

「何のための祈りだよ」

「ルーベンが無事、ラナ様に導かれるようにって。みんなやってるぞ」とアンナ。

「やらないねぇ。あんたこそどうなんだ。祈れよ」

「絶対にしない」

「それで? どうしてここに呼び出した?」

 エリオットはアンナを見た。

「仕事だ。アラインガルドのミラージュが一人行方不明になった。どうやらそいつはアラインガルド王子の金を持ち逃げしたらしい。探してみないか?」

 アンナが言った。「金持ちになるなら今だ」

「またかよ」

「もう嫌か?」

「その通り。俺に人探しは向いてない。遠慮するよ」

 エリオットは言った。

「腰抜けが」

 アンナが言った。「だからお前は駄目なんだ」

「なんとでも言ってくれ。俺には訓練がある。忙しいんだ」

 義手をゆっくり動かした。

「仕事の話は終わった?」

「終わった」とアンナ。

「俺が終わらした」

 エリオットが言う。

「じゃご飯でも食べない?」とニーナが言った。「この葬式、退屈。みんな祈ってて辛気臭いんだもん」



<了>

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