7-4
神殿を先へ進んだ。
再び祭壇がある。
「こっちは本物か」とエリオット。
祭壇には埃で縁取られた四角い痕が残っていた。ここに惑星の書上巻があったのだろう。
「取られたみたいだな」とアンナ。
「向こうは上下巻手に入れた」
「じゃもう過去にいっちまったってのかい?」
デイジーが言う。
「さぁな」
アンナは舌打ちをする。「あのクソ野郎、どこに行きやがった」
「デイジー、心当たりは?」
「何度も言うけど知らないよ」
「そうだな――」とエリオット。「どういう条件が必要なのかは知らないけど、すぐ過去に行けるならもう行ったに違いない。けどあいつの目的は両親の殺害阻止だろ。過去に戻ることも大事だが、場所はどうなんだ? 惑星の書で過去に戻るとき、時間と同じように場所も思ったところまで飛べるのか?」
エリオットが言った。
「知るか、そんなこと」とアンナ。
「もし場所が飛べないなら、つまり五年前のマリアノフに行きたいなら、今のマリアノフで惑星の書を使う必要があるだろ。仮説でしかないけど、あいつが両親の殺害を止めるなら、殺害現場近くで、過去に飛ぶはずだ。いや、デイジー、あんたの両親がここで殺されてたなら話はまた別だけど」とエリオットは続けた。
「いい視点だな。デイジー、他に手立てもない。両親が殺された場所へ行くぞ。どこだ?」
「あたしの故郷だよ。北の村さ」
「場所は?」とエリオット。
「ラグナルから貰った地図があるだろ。あれさ」
デイジーが言った。「あたしの逃亡先は生まれた村だったのさ」
「なるほど。あの時はどこへ行くか知らない振りをしていたわけだ」
「どこに裏切り者がいるかわからないからね。それに行きたい場所でもないし」
「こうなるとわかっていれば最初からそこで待ち伏せしてたのにな」
エリオットが言った。
「遠回りもいい」とアンナ。
「左腕がなくなった」
「私はお前の左腕を斬れた」
「あー、なに。それって良いことに含まれるわけ?」
「厳密に言うとな」
「悲しい出来事だろうがよ」
エリオットが言った。「あとはニーナの為に解毒剤を諦めた勇敢な出来事とか」
「自分で言うな」
「誰も言ってくれないんだもん」
「ん――。んっ――」
ニーナが声を上げる。唸っている。
「起きたのか?」とアンナ。
「ニーナ、大丈夫か?」
エリオットも近づいて顔を覗いた。「聞こえるか?」
「エリオット――なの?」
顔色も戻っている。
ニーナはゆっくりだが瞼を開いた。
「私はアンナだ」
「あんたに聞いてない。俺に尋ねたんだ」
「なに? なに言ってるの?」
ニーナは理解が追いついていないようだった。汗で頬に髪が張り付いている。
「俺はエリオットで、こっちはアンナだ」とエリオット。
「そう。私、どうなってた?」
ニーナは深呼吸をした。まだ全快というわけではないらしい。
「毒蛇に噛まれた」とエリオット。
「そこまでは覚えてる。それでアンナさんに助けて貰って、励ましても貰って――。けど意識がなくなるまで、ずっと大丈夫だ、しっかりしろって言われてて――。それで、その後はどうなったの?」
「なんだよ、あんたニーナを励ましてたのか?」
エリオットがアンナに言った。「はい、か、いいえ、で答えてくれよ」
「忘れた」
アンナが言った。「何も覚えてない」
「おい、はい、か、いいえって言ったろ? 照れるなよ」
アンナは黙った。
「まぁいい。ニーナ、毒はたぶん大丈夫だ。デイジーが持ってた解毒剤を使った。それで助かったんだ」とエリオット。
「あたしに死ぬほど感謝しな」
デイジーが言った。
「ありがとう」
ニーナは素直だ。「けど、エリオット。その左腕はどうしたの?」
「これは名誉の負傷だから気にしないでいい」
エリオットはアンナとデイジーを見る。
「こいつは馬鹿だから敵にやられた」とアンナが言った。
「大変じゃない。なくなっちゃったの? 左手が?」
「右手がある」
「そういう問題じゃないでしょ?」
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