4-7
隅には人骨が積んである。頭蓋骨もあった。黄ばんだ骨たちに、破損箇所は見られない。少なくとも打撃を受けて死んだわけではなさそうだ。
湿気が多い洞窟内部を進む。先に行けば行くほどに、人工物が多くなる。だが人影はない。アントーニオ以外いないのだ。
「臭いぞ」
アンナがエリオットに言った。
「さっき池に落ちた」
まだ歩いている。
幾つかの広間と部屋を通過した。「乾くまで待ってくれ」
天井から雫が滴り落ちた。地面も湿っている。湿気が高い。不快感。重さのある空気がまとわりつく感じだった。
「元々、ここは地下水脈だったんです。今でも上や下には水が流れてるんですよ。たまに洪水で、膝まで水に浸かることもある」
アントーニオが言った。沈黙が嫌なのかもしれない。
「どうでもいい。まだなのか?」とアンナ。
「もうそろそろです」
抑揚のない声で先を歩くアントーニが答えた。
「ここにはお前とその大司教だけなのか? さっきから人間が一人もいないぞ」
「皆、部屋にいるのです。それが我々の勤めなのです」
ニベス会は秘密結社だ。生態には謎が多い。
「こちらです」
アントーニオが足を止めた。
正面に扉。ツタの葉に似た意匠の飾りが吊るされている。「これはヘデラという葉です。不死や不滅を象徴する葉で、私たちの会派ではとても大切にされている植物です」
「いいから開けろ。さっさと大司教を出せ」
「すいません」
アントーニオが扉を開いた。
ノックなし?
その動作に疑問を抱いたエリオットだが、すぐにその考えも吹っ飛んだ。
人が転がっていた。
アントーニオと同じ黄色い司祭服を着ている。
床に仰向けで倒れていた。
そしてその奥には、信者とは思えない連中がいる。だが、どんな奴らかはもう知っていた。
モロウ・リー盗賊団だ。
アンナとエリオットは即座にアントーニオの前に出た。
「エリオット」
アンナが叫ぶ。拳を構えた。合図だ。
エリオットは剣を抜いた。
「アントーニオ、そこにいろ」とエリオット。
後ろを見た。
いない?
いや、思ったよりも後ろにいるだけだ。
だがこちらを見て微笑んでる。
通り過ぎてきた部屋から、盗賊団の奴らが出てきている。
「アントーニオ、お前、裏切ったな」
エリオットは声を荒げた。
アンナもアントーニオの笑みを確認する。舌打ちが聞こえた。
前も後ろも敵しかいなくなった。
盗賊の一人が、部屋から人を放り出した。黄色い司祭服につま先の開いた靴。眼球があらぬ方を見ている。死んでいた。
「皆殺しにしたのか?」とアンナ。
「伝統ある秘密結社だが戦闘経験は皆無だった」
アントーニオが答えた。「私以外は」
否定しなかった。
「お前ら、そのまま動くな」
アントーニオは盗賊の群れの中へ。
膠着状態。盗賊たちはアントーニオの指示を守って動かず、睨みを利かせる。二人は追いかけることもできずにアントーニオを見送った。
「かかってこいよ」
アンナが言った。「もうお前らの友達は行ったぞ」
「動かない、みたいだ」とエリオット。
どこで緊迫した状況が解かれるのか。その時を待って神経を張り巡らせる。
相手の数。武器。目線。構え。
どれを確認してもきりがない。
動いたら、殺す。生き抜くにはそれしないのは理解していた。
「うぅ――」
倒れていた大司教が呻き。間近にあった盗賊の足首を掴んだ。まだ生きてたのか。
アンナが飛んだ。
足首を盗賊の顔面を打ち抜く。拳を振り切った。
盗賊たちがかかって来る。
エリオットも剣を振り回した。
首を飛ばす。
だがすぐにわかった。切りがない。終わりが見えない。
「このままじゃやられる」
剣で盗賊たちを蹴散らしながらエリオットは叫んだ。
「それはお前だけだろ」
アンナは盗賊の口に手を突っ込んで、思い切り顎を引き抜いた。顔が引き裂かれ肉片が飛び散る。
「不老不死はいいよな。けど俺は助かりたい」とエリオット。
アンナは死なない。不老不死だ。
見ると既に脇腹にナイフが刺さってる。だが関係なしに相手を叩き潰していく。アンナに任せておけば、戦いは確実に終わる。だがエリオットは人間だ。体力の限界が来ていつか殺される。
「ふんばれ」とアンナ。
飛びついてきた相手を肘うちで剥がしている。
「何かないのか」
エリオットが言った。「全てを殺す技とか」
「ない」
「きっつー」
首を斬り続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます