2-6

 カイロノフに着く。門番は律儀に二人の帰りを待っていたらしく、戻るとすぐに扉が開いた。街に入ると、一直線にパントの店へ向かった。

 ドノヴァン通り。静まり返っている。倒れている酔っ払いは静かだ。喧嘩も合唱も終わったのだろう。

 路地へ。パントの店の扉。

「ここにも敵がいるかもしれない」とアンナ。

「覚悟はしてる。嫌だけど」

 剣を抜いた。

 アンナが扉を開いた。

 中を見る。

「そういうことか――」

 エリオットは剣を鞘に戻した。

 パントが床に倒れていた。鼻の下、口の周りには乾いた血。脇腹も赤く染まっている。瞼は腫れ、顔は赤く充血していた。

 アンナが足を踏み入れる。エリオットも続いた。

「生きてるか?」とアンナが屈んで声をかけた。

「スゥ――」

 呼吸する音。パントは両目をアンナとエリオットに向けた。

 エリオットは水を用意する。

「飲めよ」

 アンナがパントの上体を起こした。動かない唇に傾けたグラスを当てて水を流しこんでやる。

「すまない」とパント。それから「スゥ――」と呼吸する。

 もう長くないだろう。脇腹の傷口は深い。床の血溜まりを見ても、相当な量の血を失ってる。

「刺客は全員殺した。問題ない」

 アンナが言った。

「それは俺の仲間だった奴らだぞ」

 パントが言った。表情が動かないので、それが冗談だと気づくのに時間がかかった。

「あんたも嵌められたのか?」とエリオット。

「水じゃなくて――、酒だよ」

 パントも自分のことをよくわかっているのだろう。

「そうだな。こういう時は水より酒だよな」

 棚にあったワインの栓を開けた。そのまま口に移してやる。

「野営してる場所がある。クイン山だ。そこにいる」

 パントが言った。「本当に――、世の中、ふざけるな、だ――。スゥ――」

 アンナが支えていたパントの身体を床に置いた。

「死んだ」

 アンナは言った。

「見ればわかる」とエリオット。

「その表情は怒りか?」

「あんたこそ。らしくない」

「満場一致みたいだな」

「珍しい」

 外に出ると雪が降っていた。


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