第18話 負けられない戦いがここにある
優は意識を勇気に変えて、戦う決意をした。
悪魔を倒すため、勇者が立ち上がる。
戦闘が勃発!
運命の敵同士が出会った時、エンカウント次元が発生し、優と灯花は別世界の惑星へと降り立っていた。
空には次元を隔てた地球が蜃気楼のように揺らめいて見えている。月面のような荒野で優と灯花はたった二人きりで対峙していた。
「今更何をしに来やがった灯花あああああ!!」
「フフ、言わないと分かりませんか? もちろん、あの人をもらいに来たんですよ」
「お兄ちゃんはお前なんかに渡さねええええ!!」
「見苦しい人間ですね。お姉ちゃんが教育してあげましょう!」
優は手に勇者の剣を持って構えた。灯花は鞭を持って打ち鳴らす。
バトルだ!
「死ね! 灯花ああああああ!」
優は剣から光のビームを発射した。悪を滅殺する聖なる光だ。並の悪魔ならひとたまりも無く蒸発するだろう。
その攻撃を灯花は優美なお嬢様がアイススケートを滑るかのような華麗な動作で次々と回避していった。
全部避けて、灯花はダンスを終えたかのように優雅に一礼してから嘲笑った。
「そんな物ですか? なっていませんね!」
素早く一瞬のうちに近づいてきた灯花。
「朽ち果てなさい。今ここで!」
鞭を荒れ狂う暴風のように繰り出してくる。その地上に立っていては回避のしようのない打撃を優は空に飛翔して回避した。
その行動に灯花はわずかに目を見開いて見上げた。
「飛んだ!?」
「今のあたしにはなあああああ! 天使が付いてるんだよおおおおお!!」
優の背には天使の翼が広がっていた。寄り添うように天使が現れて優に光を与えた。
「真に正しい愛のために戦う戦士よ。あなたに邪悪な悪魔を打ち滅ぼす天の装備を与えましょう」
優は与えられた天の装備を身にまとい、その剣は聖剣へとバージョンアップを遂げた。
正しき人類に祝福を与えたミンティシアは空へと還っていった。後は人間の仕事だ。
「くたばれ! 灯花あああああああ!!」
光の矢の如く飛び出した優の剣撃を、灯花は後ろに下がって避けた。
抉られて爆発する地面。
着地した優に向かって、爆風から抜け出した灯花が足を振り下ろしてきた。
凶悪な殺意を持って弱者を踏み潰そうとする足を、優は盾を上に構えて防いだ。
お互いの力が拮抗している。
灯花は上から悪魔のように冷酷に見下してくる。
「天使が味方している。その程度のアドバンテージでわたしに勝てるとでも?」
「くっ」
灯花が足で盾を踏み砕いてくる。優は盾を捨てて後ろに素早く跳躍した。
灯花の足で踏まれた地面が激しい爆発となって砕け散った。
飛んでくる石を恐れずに優は敵に立ち向かう。
「勝てるさ! お兄ちゃんはあたしの料理が好きだと言ってくれたんだああああ!!」
「ならば、その希望を絶望に染めてあげましょう!」
灯花は悪魔の翼を広げて、赤い殺意の弾丸を発射した。
優も負けじと天使の翼を広げて、光の弾丸を発射した。
無数の弾丸同士が衝突しあい、爆発する。
優と灯花は同時にお互いの敵に向かって飛び出した。
灯花が鞭を振るい、優が剣を突き出す。
戦いはいつ果てるともなく続いた。
そんな戦いが二人のイメージの中で行われていた。ミンティシアと正樹はよく分からずに見ていた。
ちなみに今の戦いにミンティシアは全く関与していなかった。優の勝手なイメージだった。
やがて灯花が目を開けた。
「なかなかやりますね、優さん」
優も目を開けた。
「そっちこそ。でも、リアルじゃこうはいかないから」
密かに微笑み合う二人を見て、正樹は二人は仲良くなれたのだろうかと思ったのだった。
相沢家の食卓に晩御飯の時間が訪れた。
優がいつものように料理を作っている。いつもの時間だ。
だが、今日はいつもとは違っていることがあった。
「それにしても驚いたな。優が灯花さんを誘うなんて」
ずっと変わらないかと思えた相沢家の食卓に灯花が来ていたのだ。
誘ったのは優だった。
「だって、久しぶりに会ったのに。積もる話があるでしょう」
優は気分良さそうに料理をしながら答えた。
「それでは、お言葉に甘えて。楽しくトークをしましょうか」
「は……はい、灯花さん」
始めは緊張した正樹だったが、次第に打ち解けて話が出来るようになっていた。
彼女は本当に優しい少女で昔と何も変わっていなかった。あの日が蘇ったような気分で正樹は話すことが出来た。灯花もそんな正樹の話に花が綻ぶような優しい笑みを見せていた。
ミンティシアはそんな二人の恋人トークを邪魔しないように見ていたのだが、たまに話を振られたので犬が尻尾を振るように喜んで答えていた。
どうでもいい雑談だ。どうでもいい雑談が行われている。
優は心を研ぎ澄ませて目の前の料理に集中した。
優は何も勝算が無くて灯花を自宅に誘い込んだのではない。
勝つために! 自分のフィールドに誘い込んだのだッ!!
優の手元には今出来つつある料理がある。これはとても良くない料理だ。
一流の料理人は一流の料理キラーにもなる。豊富な知識と経験から優は一番まずい組み合わせを選び出していた。
このアルティメットデストロイ料理ウエポンを綺麗な灯花に食わせてやるのだ。
綺麗な灯花はゲロまずーと言って飛び上がり、正樹の長年の夢も冷めることだろう。
暗い想像に優は笑っていた。
二人は今、何を話しているのだろう。幸せなのは今だけだ。優は耳を澄ませてみた。
正樹と灯花の明るい話が耳に飛び込んでくる。
正樹は何やら自慢げだった。その話の内容は。
「優の料理って、めちゃめちゃ上手いんだ。きっと灯花さんも気に入ると思うよ」
「そんなに凄いんですか? 言っておきますけど、わたしの舌ってうるさいですよ」
「大丈夫だって。優の料理は世界一なんだ! 味は毎日食べてる俺が保証するから!」
「それは楽しみです」
正樹と灯花は本当に幸せそうに話し合っていた。
「こんなのじゃ駄目だああああああああ!!」
優は作りかけの料理を派手に横に払いのけた。
「優! どうしたんだ!?」
「優さん!?」
正樹も灯花もミンティシアもびっくりした目で優を見た。優はぎこちなく振り返った。
「ごめん、お兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんに恥を掻かせない立派な料理人になるから」
「あ……ああ……」
優は再び料理の準備を始めた。その後ろ姿を正樹は見ていた。もしかしたら灯花が来ているから緊張しているのかもしれないと正樹は思った。
灯花は冷たい悪魔の微笑みを浮かべ、すぐにそれを引っ込めて正樹に向かって言った。
「それじゃあ、正樹さん。また料理を作り直すとなると時間が掛かりそうですし、それまでの間に正樹さんの部屋を見せてもらっていいですか?」
「え? 俺の部屋なんか見てどうするの?」
「見たいんですよ。駄目ですか?」
正樹はどうしようか迷ったが、特に女の子に見つかって恥ずかしいような物はないと思うし、そんなに散らかってもいない。
正樹が綺麗好きなのもあるが、毎朝優が起こしに来る場所なので気を使ってもいた。
部屋にはアルバムとかがある。
灯花と楽しい話が出来るかもしれない。そう思って正樹は答えることにした。
「うん、いいよ」
「わあ、嬉しいです」
正樹が歩いていって、灯花が後に続く。優は料理を見ていて、灯花の残した見下した笑みには気づいていなかった。
優は両手を震わせて、どうしようもない屈辱を感じていた。
「ちくしょう……」
そんな彼女を、さすがのミンティシアも心配する顔になって見ていた。
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