レイディアント・ウィザード ~燃える緑眼の魔法学徒~

神代零児

ー序幕ー 世界視の十七歳

 緑という色は優しく萌える草木を連想させるに値するが、魔術学院の学徒ラーツィ・ニアを知ってしまえばそうは言っていられない。


 身に着けたクランハイム魔術学院の学徒服。そんなものよりも、十七歳にして何者をも恐れない不遜さに満ちた顔と、冷たく色めく緑眼が彼の存在を示していた。


「クリオ・アリアーデは……。やはりそういう事なのかが気になる」

 学院の正門を前にして立ち、そう呟くラーツィ。


 今は夕刻前。多くの学徒は一日の講義を終え、その中でも街へと繰り出す者達がそんな彼を――避けるようにして通り過ぎていく。

 ラーツィはそんな事は何処吹く風という感じだった。が、やがて門の外でざわめきが起こると真剣な表情へと変化させるのである。

「……帰ったか」


 ざわめきの中心から、同じクランハイムの女性学徒正装に身を包んだ女の姿が見えた。右手には魔法を繰り出す為の触媒となる杖を持っている。

 周囲が騒ぐのは彼女がハリの有る肌をした美人だからではなく、その誇るべき学徒服をにし、更には傷を負い特に――左腕の火傷が酷かったからだろう。


 門を潜った彼女は誰かから心配する言葉を掛けられても一言も発さずに、只管急くように歩を進める。目の前にラーツィが居ても、それでも構わずにだ。

 しかし――


「右手に持った杖で為に、左手を敢えて捨てたんだろ? お前らしいな」

 まるで日常会話でもするかのようなノリで、ラーツィはそう言ったのだ。


 彼女は足を止めた。ラーツィと、吐息が掛かる距離で。

「うるさいっ、殺すぞ!!」

 間髪入れず、眼光鋭く彼女が怒鳴った。周囲に響き渡る程の大きな声だった。

 ラーツィはその緑眼の輝きを揺らがせる事無く、笑った。


「はははははっ。お前は本当に面白いな、クリオ」

 ラーツィに名前を呼ばれ彼女――クリオ・アリアーデは、と強く睨み付ける表情のまま胸元へと火傷した左手を差し込み、学徒服の中に隠すように身に付けていた首飾りネックレスを掴んで……見せ付けた。


 ラーツィはそれを目の当たりにして、微笑む。

「それが獄炎の首飾か」

 クリオがラーツィの背後の、学院全体を見据えるような目線を向けた。

「私は、こんなの思い通りにはならないわ」

 そう告げた声色はさっきの怒声とは違って、力強くも澄んだものだったのである。


「上等だな。……さあ、行って来いよ。自分こそが契約霊を得る為の儀式に挑む資格者なのだと、に宣言してやれ」

「アンタみたいな異端児に言われるまでも無いわ。それじゃ」

 ラーツィの言葉を無下にした上で、クリオは彼の横を通り抜けていった。火傷の治療は、きっとそのに獄炎の首飾を叩き付けた後で行うのだろう。


「お前のその世界の見方、嫌いじゃないぜ」

 ラーツィはクリオの方には振り返らずに、独り言みたいに言った。

 去り行くクリオには当然見えていないし、未だ周囲で呆然としていた他の学徒達には見えていてもとは分からなかったが……ラーツィの緑眼が、その時は優しく煌めいていたのだ。


 ――第0話へ続く――

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