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西暦一九三三年、アメリカ合衆国カリフォルニア州西部の地点に突如、異空間の世界への穴が開いた。
異世界に広がる大地が、地球に同じく人体の生活に適した環境であったことが判明してから、地球に住む人々の移住計画が実行に移されるまで、さほど時間はかからなかった。異世界に次々と移住した人々は、やがて社会を作り、街を作り、そしてアメリカ合衆国統治下の自治領を築くことになった。
しかし、異世界に住み着いた人々に「地球で生きられなかった者」として偏見を抱いた地球の各国、各企業は、やがて異世界の人々相手に非人道的な条件を強いることになる。
マイルズ暦と名付けられた新しい暦が異世界で制定されて三十年、異世界に移住した人々によって作られた自治領は、地球の先進諸国の駐留軍に対して宣戦を布告した。異世界に存在する資源を、地球国家側が不平等な協定によって実質的に搾取していたこと、その際に労働者たちが過酷な条件での労働を強いられていたことが、テロリズムによって勃発したこの戦争の主たる原因であった。
異世界の中に存在した、ある特殊なエネルギーを使用した最新鋭の兵器【GOW】によって、死闘は繰り広げられた。
イデオロギー戦争の様相も呈したこの戦争は、異世界の独立に同情的な空気が地球市民側に存在したことから、地球連合側が戦意を維持できなくなったこともあり、異世界側の勝利に終わった。
かくしてマイルズ歴三二年、一つの国が生まれた。
思想や価値観によって地球上の既存の国家から分離した、一つの共和国であった。
やがて防衛線を貼るように地球と異世界の境界線がそのまま国境となる形で、異世界にいくつもの国家が生まれ、連邦国家となった。
だが、他者の幸福を喜ぶことのできない人間というものはどこにでも存在する。
突然現れた国家が繁栄するにつれ、新しい世代の地球市民たちの視線は、希望から疑惑へと変わっていった。
すなわち、国力を手に入れた『異世界人たち』が、かつて自分たちを搾取し、酷使した地球国家相手に、武力によって報復を行おうとしているのではないかという疑惑である。
マイルズ歴七五年、地球先進各国で権力を握った過激派保守政党は、異世界の連邦国家が地球国家の官僚を暗殺したテロ事件に関与していたという理由で、地球国際連合軍(元国際連合軍)による宣戦を布告した。
三年にわたる戦争は、政治的な圧力によって資源、最新鋭の技術力によるGOWで優位に立った地球国際連合軍の勝利に終わった。
終戦からほどなくして、異世界連邦と地球国際連合の新しい国際関係の標となる条約が結ばれた。両世界の平和と経済的相互援助を謳ったこの条約には、地球国家に対する資源貿易の関税権や各地域の利権割譲などが含まれており、明らかに地球国際連合軍の有利に傾いた不平等条約だった。
かくして異世界に築き上げられた連邦国家は、事実上地球側の属国となった。
それから、一五年後、その【神話】は蘇る―――
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