楽園奪還機スタインザリナス
八木耳木兎(やぎ みみずく)
プロローグ ー Dedicated to Salinas people
地球ではないどこか。
現代ではないいつか。
誰も知らない、その時その場所に、確かに【彼ら】はいた。
居場所を求め、ある者は団結し、ある者は分裂した。ある者は旅をし、ある者は一つの地に根を張った。
誰もが【居場所】を求めて、生まれ、生き、死んでいった。
確かに実在したはずの彼らがいつどのようにこの場所から消え去ったかは、誰も知らないし知る術もない。
しかしその場所に、確かにその記憶はあった。
人々が死に絶え、肉体も朽ち果てた死の世界で、人々の意思と、その記憶だけは、永い眠りにつきながらも消滅せず彷徨っていた。
それから、どれだけの月日が流れただろうか―――
マイルズ暦九三年七月一三日・キングシティ標準時十三時五二分。
地球とは異なる世界・【EoE】の東B24エリア、【サイラス】ピックスレー基地。
烏丸ケイイチの頭の中には、その世界で長年眠り続けた【記憶】が春の小川の流れのように流れ込んでいた。
その時の彼には、先人の記憶などに思考を傾ける余裕は一切残されていなかった。
型式不明の人型兵器・GOWに乗り込んだテロリストの少年・グレイを止める中で、多国籍警備部隊【サイラス】を率いる最強のGOW【アーロン・トラスク】を操縦する中で、右腕に痛々しく残る傷跡の痛みに耐える中で、命を懸ける戦いを強いられていたからだ。
そんな彼の状況など無視して、場違いな【記憶】は自分の存在を知らしめようとするかのように、ケイイチの脳内に入力されていった。
一言で表現するなら、それらは【神話】。
語り継がれることによって記憶される、次元を異にする者たちの物語。
ふとケイイチの目を、一筋の涙が伝った。誰の物語かも、いつどこで起こった話かもわからない。にも関わらずケイイチの目からは、涙がとめどなく流れだした。
悲しさも嬉しさもない、そもそも今はわけもわからず流れ込んでくる幻のことを考えていられる状況ではない。
そう考えているはずのケイイチの涙は、その思考に歯向かうかのように流れ続ける。まるで彼の体に、だれか別の人格が寄生しているかのように。
この時、この瞬間。
生死を争う状況で流れた烏丸ケイイチの涙で、その世界に眠っていた【記憶】は今確かに動き出した。
これは巨神が駆ける戦火の中で、地球人類が神話―――楽園を求めた者たちの神話、【サリナス神話】と出会う物語である。
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