第264話 ミッション

 俺は今理由はわからないけど、なぜだか寄白さんとふたり「六角第一高校いちこう」廊下の二階の角に潜んでいる。

 なんせ今の寄白さんは不思議っ娘のツインテールだから俺はただいわれるがままここにいる。


 呼び出されて学校にきたはいいけどいったいなにを? 当の寄白さんはというと上と下の歯でドーナツ状のアメを噛んで――ブハッ!! ブハッ!!と口笛を詰まらせていた。

 

 音出てねー!!

 トロンボーンにボール突っ込まれたような音だし。

 アメで笛吹くの苦手系か? なら、ふうつにしてればいいのにとはいえない。

 

 けど、これはいったいなんのミッションなんだ? 俺の視線の先には行事予定なんかを貼る校内の必須アイテム移動式掲示板がある。

 ああ、転入初日を思い出すわ~。

 あれをながめつつ廊下の窓から二階なのに意外と低いな~なんて思ってたらまさかの四階建てだったんだよな。


 あの朝なつかしいな~。

 あっ!? 

 や、山田、あいつなにしてんだ? こんな朝から? ストーカーの朝練? 高体連はそれでいいのか? 俺の中で山田の正体はストーカー界の大物フィクサーかストーカー界期待の大型ルーキー、ストーキング免許一級保持者のどれかだ。

 もしくは複数掛け持ち説もある。


 どんなだよ!? 

 いちおう自分でつっこんでおく。

 ストーキングってスポーツなのかという疑問も湧くがそれはいったん保留だ。

 俺らが見張っている(?)その場所に姿を見せたのは山田だった。


 昨日、駅前に現われなかったのをいいことに、って俺が廊下の角から山田を見てるんだからどっちかっていったら俺のほうが山田のストーカーみてーじゃねーか……。

 なんとなく軽い敗北感を味わう。


 なんだこの気持ち。

 試合に負けたけど勝負には買ったような……うん、ぜんぜん違うな。

 そんな青春スポーツ感はない。

 あっ、山田のやつ制服の内ポケットからカ、カッターをとり出した。

 は、刃物だと!? 

 きょ、凶器を所持している。


 や、やべー、ついにその領域いったか。

 そ、それをどするんだ? いちおう寄白さんの前にいって警護するか? 今の俺なら能力さえ発動すればなんとかなるぞ、と、思ったけど寄白さんもれっきとした能力者だった。


 あんな刃物くらいじゃビクともしねーな? 瞬発力とかハンパねーし、人体模型のときのスピードとかすごかったし。

 モナリザのときもぜんぜんびびってなかったし。

 むしろ俺よりも土壇場に強い。


 イヤリング使えば山田ごと退治、って、いや、ここはそういう問題じゃないんだよ。

 俺は目の前の女子高生JKの盾になれるか?なれないか?なんだよ。

 アニメのかっけーやつならそうするはずだ。

 エネミーもそういうはずだ。

 とか考えていると寄白さんはツインテールをほどいて髪の毛を頭のうしろでひとつに結び直していた。

 つまりポニーテールの髪型だ。

 なんかシャンプーの匂いが……。


 昨日のシャワーにつづき今日の朝もシャワー入った感じ? 十字架のイヤリングが六個揺れてるってことはあの藁人形の腕はいまだにイヤリングの中に格納はいったままだよな? そりゃあそうだよな、時間的にも昨日四階から帰ってきて半日も経ってないんだから。

 でも、そのイヤリングにアヤカシを吸い込んだりできるんだから忌具を入れておいても大丈夫なのかもしれない。


 「しっ、静かにしろ」


 「はい」

 

 反射的に返事をしてしまった。

 ……ん? ん?


 「俺、なにもいってないけど」


 「どーせ心の中であーだこーだいってんだろ?」


 う、おっ、あ、当てられた、なんでだ? そういう能力持ってるのか? で、でも本当に俺の心が読めるならコールドスプレーの刑に処されてもいーはずだよな? 寄白さんはそういったあとにアメ玉をバリバリと噛んだ。

 アメ笛はあきらめたか? ちょっと音が大きいような? けっこうガリガリ響いてるけどな~けど山田はぜんぜんこっちに気づくこともなくカッター片手に掲示板をながめていた。


 山田が掲示板に左手を当てたとたん移動式掲示板のキャスターが巾木に接着するまで後退がっていった。

 山田も前のめりになっているけれど持っていた利き手のカッターを縦に引いて切り目を入れた。

 あいつのターゲットはなにかの貼り紙……なにかのお知らせか? 今度はカッターの向きを横にしてそのまま引き切り目を入れて、またカッターを縦に戻しカッターの刃をさっと下に引いた。

 俺はちょうどそこで山田がなにを切っていたのかわかった。

 『保健だより』だ。


 長方形のうちの天辺と横の二辺を切ったから切り目を入れた『保健だより・・・・・』がそのままペラっと前に倒れてきた。

 

 「ほら。さだわらしにお便りだ」


 も、ってなに? お、お便り? 俺はクルっとこっちを振り返った寄白さんに四つ折りの雑紙を手渡された。

 

 「えっ、ああ、うん」


 俺は条件反射でそれを受けとる。

 なんかわからんけど開いてみよう。

 寄白さんはまた山田を見張るようにしてながめていた。

 ス、ストーカーの立場逆転?


 えええっー!! 

 あああー!?

 な、なんだ、昨日寄白さんが山田に渡してた【お便り・・】って『保健だより・・・』かよー!!

 たしかに「お便り」には違いねーけど。


 俺が寄白さんに一言いおうと寄白さんの肩を叩こうとしたときだった。

 あっ、山田がいまカッターでなんかやってんのも『保健だより』ってことは俺の予想通りの行動にでるはず。


 や、やっぱりな~。

 山田のやつ『保健だより』の最新号から校長の顔写真をトリミングしやがった。

 転校初日の朝『保健だより』の校長の顔写真がなかったのも山田のしわざだったのかー!!

 ん? ん? ん? ってことは山田の狙いは寄白さんじゃなくて、こ、校長ですかー!?

 な、なんてことだ。

 ああー、俺と寄白さんが保健室にいたときの狙いも校長かー!!

 校長室の前にいたのも校長の出待ちか。


 昨日、校長は俺たちと別行動でそのあと俺たち合流した。

 ってことは……逆に考えれば山田は俺と寄白さんがバスに乗ったのを見届け、校長がひとりになったところをゆっくり心置きなくストーキングする犯行計画だったのかもしれない。


 ど、どうりでバス停の周辺にも駅前周辺にも姿を見せなかったわけだ。

 策士か山田は策士か? 昨日の山田の――きみたちまたふたりで。ってのは俺と寄白さんのふたりには興味ねーってことだったのか!?

 てっきり沙田おまえ山田ぼくの好きな寄白さんとふたりでなにしてんだゴルァ!?だと思ってた。


 トチったぁぁ、早トチったぁ山田って寄白さんのストーカーじゃなく校長のストーカーだったんだー!!

 俺はなんて浅はかなやつなんだ。

 そういや山田、七不思議制作委員会のときも生徒手帳の中に謎のプリント入れてたな? あれは校長の写真を家庭用プリンタで引き伸ばしたからドットが荒かったのか。

 思い返せば、あのボヤけたシルエットはたしかに校長の巨乳ラインだった気もする。

 まあ、引き伸ばしすぎてボシャボシャになってたけど。

 すげー遠くから校長を撮ってというかって家で印刷したのか。

 まあ、個人で楽しむぶんには、い、いや、盗撮は完全にアウトだよ未成年でもだめだよ。

 くそ、俺としたことが山田に完全に踊らされていた。


 ――それとひとつ転入生きみに良いことを教えてあげよう。僕は山田。この学校の重要人物だ。覚えておくといい!!――


 山田、さすがは俺に対して重要人物だと名乗っただけのことはあるな。

 寄白さん、だから昨日自分がターゲットじゃないってわかってて涼しい顔をしてたのか? よ、寄白さん、それを知ってるなら俺ら時間差でバスに乗らなくても良かったじゃん。

 俺、完全にピエロじゃん。

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