第265話 アレンジャーズ

 まあ、それは良いとしてこの状況はなんなんだ? 寄白さんの「お便り」でこんなになびいてしまう山田よ、おまえは小物の情報屋か? 寄白さんは特殊部隊が現場突入するときに発煙筒を投げる感じで山田の足元目がけて丸まった紙きれを転がした。

 それは校長の写真をトリミングし終わって爽快感丸出しの山田の上履きの前に計算されたように辿りついた。

 プ、プロだ。

 すげー絶妙な位置に転がっていった。


 「今、投げたのはこれだ。ほれ」


 「ん?」


 俺にもそれを先行公開してくれるのか? それがなんなのか確認してみると『保健だより』の増刊号だった。 

 ぞ、増刊号すげー!! 

 布団からはみでた、こ、校長の素足が惜しげもなく載っていた。

 さらに別角度からのものも数枚レイアウトされている。


 あっ!? 

 昨日の寄白さんと校長の姉妹のやりとりってこのためか~こ、校長のきわどい、いや、無防備ショットって『保健だより』の増刊号ためだったのか? だから寄白さん――次号の『保健だより』も私が構成をやる。って。


 ――それはお姉の無防備なときに。このお姉のさりげないポーズがファンの心をくすぐるはずだ。マニア垂涎すいぜんだな。


 これは増刊する意味があるかもしれない。

 たしかにファンなら垂涎すいぜんだろう。

 「垂涎すいぜん」とはどんな意味なのかわかんないけど、そもそもどうなるかも知らねー!!


 ただこの『保健だより』増刊号になんの目的が? 山田が熱狂的な校長ファンなのはわかった。

 だか餌を与えてどうする? 大好物を与えたらもっとエスカレートするんじゃないの? 俺って朝っぱらから寄白さんにこんな謎イベントにつきあわされてんのか? 寄白さんはきっと俺の心知らずだろう。

 山田を張っていた寄白さんがチラっとこっちを向き――でかした。みたいに俺を見ている。


 「ただ写真だけじゃなく保健ギョーカイの内部情報満載だ。全国津々浦々の高校の保健係必見の内容になっておる・・


 ――おる。じゃねーよ!?

 全国の高校の『保健だより』にそこまで差はないと思うんだけど。

 やっぱり寄白さんは寄白さんでポニーテールのときもツインテールのときと似ている部分があった。

 って、同じ人だし。

 なんかエネミーとも似てる、って「使者」と「死者」だし。


 寄白さんは、またさっきのように二投目の発煙筒かみを山田の上履き目がけて転がした。

 紙から煙が出てないけど出てるように見える。


 「つぎはこれだ」


 寄白さんは前もって、つぎの『保健だより』を俺にくれた。

 今度はどんなだよ? ね、年末合併号だとー!?

 そんな先の情報まで載ってるのか? しかも俺の知らない「なにか」と「なにか」が勝手に合併させられてるし。

 なにとなにが合わさったのかさっぱりわかんねー。


 「そのつぎ」


 「あっ、どうも」


 なになに今度は新年特別号。

 ”あけおめ”。

 ついに年を跨いだか。


 「付録は私がもったいつけて。もとい私が寝かせに寝かせた、お姉のサンタコス画像」


 寄白さん、もったいつけてが口からポロっとこぼれたけど。

 それは年末合併させたのにもかかわらずサンタ画像をカットして次号にまわすというファンの飢餓感を煽る高等テクニック。

 新年そうそうの校長サンタ。

 やり手だな。

 寄白さんアイドルの運営とか向いてるんじゃ? ファンは去年の忘れ物をとりにいくって感じで去年の売れ残りを買いにいくかもしれない。

 寄白さんならあるいはワンシーズンに対抗するグループ作れるかもしれないな。 


 ――ひゃぁぁぁ!!


 ようやく遅れて山田の歓喜の声がきこえてきた。

 増刊号じっくり読み込みやがって? もしかして山田はクラスの保健係か? いや、そういう問題じゃねーな。

 この時間差じゃ、まだ『保健だより』の年末合併号も新年特別号も見てないはずだ。


 「現行犯。逮捕!!」


 な、なぜか寄白警部殿が動いた。

 寄白さんは颯爽と山田のもとまで駆けていった。

 俺もついていこう。 

 腐っても(?)寄白さんのストーカーだと思っていた男だ。


 「ああ、これは妹殿いもうとどの

 

 はっ!? 

 い、妹殿だって? 山田が姿勢を正して寄白さんに向かって最敬礼してる。

 てかって呼んでる時点で完全にターゲットは校長だな。

 心配して損した。

 でも校長がターゲットなのはそれはそれで心配だ。

 しかも校長は寄白さんと違って能力がサージカルヒーラーだし。

 けど能力者ならデフォでも身体能力が高いんだから山田くらい楽勝か? どうだろ? でも、どっちにしろ寄白さんより心配ではある。


 「ななな、サ、サ、サンタ、ですとぉ。ミニスカでしゅ・・・か?」


 寄白さんは山田の耳元で新年特別号の内容を壮大にバラしている。

 そこは惜しまずにリリースするんだな? 大盤振る舞い、やはりやり手の運営だ。

 年末の浮つく雰囲気でいっきに売り切ろうって作戦か? なんの年末商戦だよ。


 「そのあたりは妹の私が交渉してやるよ? 何センチかトッピングを選べ」


 トッピングなのかそれは? そして寄白さんはいいように山田をもて遊んでいた。

 俺の下僕扱いを傍から見てるようだった。

 まさか俺もこんな感じ? 魔性の女め。ん? 魔性、は魔障とは関係ないか?


 「じゃあ、五センチ」


 「五センチだと? もっと冒険しろよ」


 ポニテールの寄白さんはやっぱり山田にも当たりが強かった。


 「じゃあ、ろ、六で」


 「チッ。一センチ刻みか。六でいいのか。例のあれ・・はまだ見えないぞ?」


 あ、あれ? と、は?

 そして完全に手玉にとっている。


 「妹殿。れ、例のあれとは?」


 「なんだと思う?」


 「な、な、なんでしょう。ぜひ、お答えをご教授いただきたいと思いましゅ」


 「肩だ」


 肩ヒモ? そっちかよ!? 

 もてあそぶね~。

 けど、校長も妹にいいように使われてるな。

 それでも山田は想像だけで大喜びしてる。


 「でしゅ。でしゅ」


 山田の口元に当てた手から独特の喜びがもれてる。


 「でしゅ。でしゅ」


 てか――でしゅ。でしゅ。うるせーよ!!


 「よし。不起訴」


 山田はなんだかわからないけど寄白さんに釈放された。

 なんだったんだよいったい?


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